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「お前には、まだ目的があるのだろう。ココで『自分を殺せ』と言うのは、あまり利口な物言いとは思えんがな」
少年は、言い返せなかった。だから、ボロ布の男を睨みつけたまま無言の抵抗を続けた。
「そう睨むな。アイツが言っただろう。俺たちは敵じゃない」
「…無理矢理人の家に泊まってるお前らがよくそんなこと言えるな」
少年がイヤミを言った。ボロ布の男は、それには無視をして、話を続ける。
「そう言うな。泊めて貰うかわりに、お前の目的に手を貸してやってもいいんだぞ」
いつの間にか、男は冷笑していた。少年の全てを見透かした上で、自分は絶対にお前の力になれると自信を持った、そんな感じだった。
「さっきのアイツの動きをみたろ?奴は戦闘力に関して、この世で右に出る者はいない」
薄暗い部屋の中で、低く声だけが響き、少年の甲高い声が部屋にこだまする事はなくなった。
押し黙ったまま、少年は、小さなポケットから、今度はナイフではなく、マッチを取り出して、暖炉に近づいた。
「どうした。押し黙って。俺たちの助けなど必要ないか?」
ボロ布の男は、愉しそうに少年に話しかけていたが、少年は暖炉に背を向けたまま、やはり口を開きはしなかった。カラカラと新しい薪を暖炉の中に入れて、マッチで火を着けるという一連の動作を黙々とやってのけていた。
「………」
沈黙を通した少年に興味がなくなった様子で、ボロ布の男も薄汚れた床に身体を倒した。
「アンタらが何者かは知らないけどー…」
少年が口を開いた。
ボロ布の男が、閉じた目を薄く開いた。
「これは、俺の手で、目的を達成しないとダメなんだ」
先程とは打って変わって、落ち着いた物言いだった。低く語る口調は、普段甲高い声を出す少年とは違い、冷静だ。
「世界を滅ぼしたのは、お前の父親の責任ではない」
「なに!?」
突然、振られた言葉に少年は困惑する。つけたマッチの火が、薪につき、暖炉に明かりが灯った。
「かつて、人々は、全ての真理を知ろうとした。そして、完成したのが、お前の父が作った『物』だ。それは、後に『人形』と呼ばれ、世界を滅ぼし、人は地上に住むことを許されなくなった。ある奴を除いては」
「もういいッッ!!やめろッッ!!」
少年の呼吸は、いつの間にか荒くなっていた。
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