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長く続く階段を抜けると、石壁に覆われた大きな部屋があった。だが、部屋の中にはこれといって何もなく、無意味に広い空間が広がるだけだった。
「どこに『人形』のあるんだ?ココで行き止まりのようだか…」
「まぁ、そう焦るな。俺が今から見せてやるよ」
少年は、ボロ布の男に向かい、愉しそうに笑うと、石壁を手の平で叩き始めた。
パンパン…。
パンパン…。
パン…。
バン…。
「ここか」
少年は、叩くのを止めると、持っていたナイフで石壁を突き刺した。
ガンッッ!!
金属と岩石がぶつかる妙に甲高い音が辺りに響く。
思わずボロ布の男と幼い子は、耳を塞いだ。
「…世界が滅びる前の話だ。世界戦争で王の軍の勝利が確定した時、人は自分たちが造り出した最強の兵器を使わずして降伏を宣言した。だが、もし、あの時、『対戦闘用人形兵器』を使っていたのなら!人間は、王に負けてはいなかった!」
「それをお前が今から再現するんだろ?」
「あぁ。生前、父は言っていた。アレを使っていれば、絶対に勝っていたってな!だから、亡くなった父に代わり俺がやってやる!」
「果たして、それで世界を滅ぼして、何かを得られるモノなのか。…疑問だな」
「得られる?既に腐敗の一途を辿った世界に得られるモノなど何もないッッ!!あとは滅ぼすだけだ!」
「………」
一時の沈黙が続いたあと。
「そうだったな」
ボロ布の男が低く、それだけ言った。
「お喋りは終わりだ。さぁ、いよいよ『人形』が姿を現すぞ」
石壁に突き刺さったナイフから生まれた亀裂は、いよいよ床にまで達した。
そして、縦に入った亀裂は、横にも入り、やがては全体に広がる。
「あの壁の向こうか?」
「あぁ…」
少年が相槌をうったのと同時だった。
壁が轟音を響かせ、崩れる。大量の瓦礫が生まれ、狭い部屋に砂煙を充満させた。
三人は、一斉に目を閉じた。あまりの空気の悪さに、目を閉じるしかなかったのだ。
「あ…」
一番最初に目を開けたのは、幼い子だった。口をポカンと開けて、唖然とした様子で砂煙の向こうを指差した。
「アレが、へいき?」
幼い子の指を差した先には、化石のように土にまみれ、髪はボサボサ、服もボロボロの、人形とも人間とも呼べない死体に似た屍が大量に横たわっていた。
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