使者

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 「この辺りで、少し休憩にしよう」  晴れ渡る青空の下、遠くまで透き通る様に見渡せる丘にある岩の上で、ノウェは腰を落ち着かせた。  「えぇ、そうね」  隣りに立っていたエリスが、何処か遠い空を見据えて言った。  「気持が良いですね…空気もとても澄んでいます」  後から来たマナがそう言いながら、瞳を閉じて全身で風を感じた。  「あぁ…凄く心地良いよ…本当に平和だな…」  つい数年前までは、平和という言葉の意味を忘れてしまっていた…いや、本当の意味を知りさえしていなかったのかもしれない…。  「ずっとこんな世界だったら良いな…」  「あら、その為に私達がこうして世界各国を旅しているのではなくて?」  ノウェが零した一言に、微笑みながらエリスが言った。  「あぁ…そうだな…」  そう答え、ノウェも微笑み返した。  「あれからもう6年か…」  ノウェはふと6年前の事を思い出した…6年経った今でも深く傷跡の残った事件…。  「レグナ…」  自分の育ての親にして、自らの手で討った者の名を誰にも聞こえないように呟いた…。  「懐かしい名だな…」  「ッ!?」  突如聞こえた声に驚き振り返ると、そこには真っ黒な布を被った少年が立っていた。  「…あんたは誰だ?」  ノウェの問いに答えず、ただ立ち尽くす少年からは強い威圧感が感じ取れる…。  「真人類がどの様な奴かと思ってわざわざ見に来たが…貧弱な身体だな」  「…なに? あんた俺の事を知っているのか?」  「真人類という言葉は世界には知られていない筈…貴方は何者ですか?」  ノウェとマナは影に問い掛けたが、少年は二人を無視して言葉を続けた。  「曾て竜の子と称された真人類に神に愛されし罪深き聖女、女神に成り損ねた女騎士か」  「こいつ…一体…」  話を聴き終えたエリスは少年を睨み身構えた、ノウェとマナも武器を構え少年を見据える…。  「…もう一度訊く…あんたは一体何者なんだ?」  その問いを聞いた少年は黒い布に手を掛け、脱ぎ捨てた…布の下から現われた姿は、容姿端麗且つ真っ黒い服装をした少年だった…。  「俺は…」  言葉を失った三人を余所に少年は口を開いた…それが…。  「破滅の使者だ…」  再び起こる狂気の始まりだった…。
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