第1章:遅れてきた知らせ

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彼らの故郷があるのは、M県のド田舎にある笹島町である。 勇太も竜介もその町で生まれ、大学進学で地元を離れるまで18年間をそこで過ごした。 市町村の統廃合が進み、笹島町も隣の町と合併が決まり、名前を変え今は、川中町になっている。 それに伴い、彼らの母校である笹島中学校も廃校を余儀なくされた。 小さな町だから中学の同級生はほとんどが小学校からの付き合いで、中学の3年間というよりは、小学校からの9年間を共に過ごした仲間というほうが正しかった。 元々笹島町は四方を山に囲まれてはいるが、その中でも笹島中学校は更に山の奥、木々に隠されるようにして建っていた。 家から学校までは近い者でも20分。 遠い者ならば1時間以上も歩かなければならない。 しかも自転車も送迎も禁止ときているから、通うほうとすれば迷惑な話だった。 どうしてこんな山奥に学校を建てたのか。 彼らの両親も同じ笹島中学校の卒業生であり、そんな両親は口々にこう言った。 「毎日山越えて学校まで行けば、まず足腰が鍛えられる。 それに山の色んな動植物とも触れ合えるしな。 それに、なんもない山ん中で過ごしていれば、のびのびできて広い心を持った大人になれるんだよ」 とってつけたようなこの理由は毎日の長い登下校を強いられる生徒たちにとって、まったく理解しがたいものであった。 要するに元々空き地のあった山の中に学校を建てれば、余計な経費がかからずにすむといった、そんなところなのだろう。 しかしながら、毎日の登下校のお陰か、綺麗な空気のお陰かはわからないが、勇太も竜介も含めた生徒たちは身体だけは人一倍丈夫に育ったわけである。
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