第9ボタン

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高校2年の2月後半。 季節は、冬から春に変わる準備をしている、そんな季節だった。 卒業式。 それは旅立つ卒業生にとって、大切なイベント。 だけど、それは何も卒業生にとってだけの大切なイベントじゃない。 三年生を送り出す在校生にとっても、大切なイベント。 そして、あたし芳月咲(ヨシヅキサキ)にとっても。 「あー。もうすぐだね。卒業式ー……どうしよー……。」 机に顔を埋めながら、そう呟いたのは、クラスメートで友達の前田祥子(マエダショウコ)。 「だねー。」 あたしはその呟きに短く返事を返した。 「あ。咲なんか余裕じゃない!?あ、もしかして、もう島谷先輩の第2ボタン予約済みなわけ!?」 「違うってばー。大体、あたしが狙ってるのは、島谷先輩の第2ボタンじゃないもんっ!」 『卒業式』 『先輩』 『第2ボタン』 放課後の教室には、この季節ならではの単語が飛び交う。 うちの学校の制服は、高校生だけど学ラン。 だから、卒業シーズンには女の子達が憧れの先輩の第2ボタンを貰おうと必死になる。 「はぁ?まさかあんた、浮気!?島谷先輩に言いつけてやる!」 「だから違うってば!お姉ちゃんに聞いたんだけどね……」 あたしが言い掛けた瞬間、後ろから乱暴にドアが開かれる音がした。ガラっ! 「咲!おっせぇンだよ!サッさと帰っぞ。」 「はいはいっ。じゃあまた明日ね、祥子!」  
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