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ほんの一瞬だけ、あたし達の間に沈黙が流れた。
だけど直ぐにその沈黙は、振り返った圭の「はぁ?」と言う声によって破られる。
「だから、第2ボタンよこせって言ってんの!」
あたしはそう言いながら、手のひらを広げて「早く。」と催促した。
「なんで、俺がお前に第2ボタンやらなきゃなんねぇンだよ?」
第2ボタン。
それは本来、卒業していく想いを寄せる人に対して求めるもの。
「俺は春からお前と同じ3年なの。この制服も着続けるし、第2ボタンも使うんだからやるわけねぇだろ?」
圭は卒業するわけじゃないし、
あたしは圭に想いを寄せているわけでもない。
眉間にシワを寄せながら、圭がそう言うのも分かる。
「だって、」
「だっても糞もねぇんだよっ。大体お前は第2ボタン貰う相手が違うだろっ。」
圭があたしじゃなくて違う方向を見つめながらそう言うから、あたしもつられるように圭の視線を追った。
「……あ、島谷先輩……!」
圭の視線の先、グラウンドには制服姿の島谷先輩の姿があった。
島谷隆司(シマタニタカシ)先輩は、一つ上の先輩であたしが二年間想いを寄せ続けた人。
そしてあたしの彼氏でもある人。
「俺じゃなくて、アイツに言えよっ。」
そう言って圭は、前を向き直して自転車をこぎだす。
圭の言うとおり、本来あたしが第2ボタンを求めるべき相手は島谷先輩なんだろう。
だけど……──
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