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『……──最後にもう一度だけ、卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。以上、在校生代表、小山謙次郎。』 淡々と卒業式が行われる中、俺と小林は、去年同様そこに遅れて合流した。 「やべ、始まってる!」 「ってか、席遠くね?」 「もう、ここで良いか。」 そう言って、小林が体育館の壁の片隅に背を預けた。 俺も同じようにしてその隣に寄り掛かる。 卒業式とゆうおめでたい席のせいか、いつもは煩い学年主任も、それを黙認してくれたようだ。 静まり返る体育館の中、卒業生一人一人の名前が読み上げられていく。 啜り泣く声と、僅かに漏れる話し声の中、見覚えのあるヘアゴムを付けた咲の後ろ姿を見た。 姿勢を正して、真っ直ぐ壇上を見つめている咲を見ながら心の中で自分の名前を呼んでみせた。 卒業証書を授与されるもの。 2年3組、 小野塚圭。 そして咲から壇上へと視線を移し、心の中で返事をした。 このとき、咲が同じように自分の名前を読んで、同じように自分自身に返事をしていたことを、俺は知らなかった。 卒業証書を授与されるもの。 2年1組、 芳月咲。  
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