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雨が降り頻る梅雨の頃。
傘を片手に黙して歩く今日この頃の僕。
今日って言っても午後零時前だ。あと10分もすれば明日だ。
だから雨なんか止めよ、頼むから。
雨は苦手だ。湿気が好きじゃない。
そもそも雨で楽しくなるはずの思い出を奪われる。遠足とか、町内の運動会とか、青空給食とか。
僕は学校行事に自ら参加するタイプでは決してなかったけど、そういった昔ばかりの行事を思い浮かべるのは
僕が単に疲れているからだろうか。
ああ。
だったら頑張れ、僕。
さて、そんな僕は今バイトの帰り道。
移動手段として
原付があるが、貧乏で買えやしない。
免許だけじゃ移動できないので却下。
仮にあっても、この雨じゃ気が進まない。
事故ったら大変じゃ済みそうにない。
貧乏なのでやはり自転車もない、これも却下になる。
世の中には因果関係がある。
当然、僕が貧乏なワケもある。
僕は家出少年なのだ。
少年ッて歳でもないな、むしろ青年だ。
僕は数年前のあの日、家を飛び出した。
飛び出したワケ??
理由。
…理由。
理由ならある。
単に夢を掴みたかったのだ。
けれど具体な夢はない。
けれど掴みたかった、どうしようもない苛立ちが僕を動かして、気付けば家出。それで見知らぬ土地で過ごし始めてはや1年と少しが経つ。
家出資金として多少の貯えがあったのだが、それも儚くすぐ消えた。
世の中そんなに簡単じゃなかった。
ここで疑問に思われるんじゃないかと思う事がある。
未成年なのに何故どうやって生活しているか。
だ。
生活費はバイトでギリギリなんとかしている。
しかし問題は居住だ。
これが運がよかったのだ。
僕はとても古い…(今にも壊れてしまいそうな)木造のアパートに住んでいる。
それは家出して出会った人にある。
ワケあってその人…つまり管理人様は現在いらっしゃらないのだが、僕はその恩人にアパートを破格の家賃で借りているのだ。
あの日、全てをその人に話したら、快く貸してくれた仏のような人様なのだ。
ま。そんなこんなで僕が家出して1年。
と、もう、1年も経つのか。
…ドサっ!!
っと物音がした。
雨音よりも鈍い音で。
不思議に思って、時間も少し怖かったので反射的に振り向いた。
するとそこに、
黒い塊が横たわっていた。
それが。
それがその夜、黒猫のような、彼女との出会いだった。
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