「はじまり」の日。

2/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
雨が降り頻る梅雨の頃。 傘を片手に黙して歩く今日この頃の僕。 今日って言っても午後零時前だ。あと10分もすれば明日だ。 だから雨なんか止めよ、頼むから。 雨は苦手だ。湿気が好きじゃない。 そもそも雨で楽しくなるはずの思い出を奪われる。遠足とか、町内の運動会とか、青空給食とか。 僕は学校行事に自ら参加するタイプでは決してなかったけど、そういった昔ばかりの行事を思い浮かべるのは 僕が単に疲れているからだろうか。 ああ。 だったら頑張れ、僕。 さて、そんな僕は今バイトの帰り道。 移動手段として 原付があるが、貧乏で買えやしない。 免許だけじゃ移動できないので却下。 仮にあっても、この雨じゃ気が進まない。 事故ったら大変じゃ済みそうにない。 貧乏なのでやはり自転車もない、これも却下になる。 世の中には因果関係がある。 当然、僕が貧乏なワケもある。 僕は家出少年なのだ。 少年ッて歳でもないな、むしろ青年だ。 僕は数年前のあの日、家を飛び出した。 飛び出したワケ?? 理由。 …理由。 理由ならある。 単に夢を掴みたかったのだ。 けれど具体な夢はない。 けれど掴みたかった、どうしようもない苛立ちが僕を動かして、気付けば家出。それで見知らぬ土地で過ごし始めてはや1年と少しが経つ。 家出資金として多少の貯えがあったのだが、それも儚くすぐ消えた。 世の中そんなに簡単じゃなかった。 ここで疑問に思われるんじゃないかと思う事がある。 未成年なのに何故どうやって生活しているか。 だ。 生活費はバイトでギリギリなんとかしている。 しかし問題は居住だ。 これが運がよかったのだ。 僕はとても古い…(今にも壊れてしまいそうな)木造のアパートに住んでいる。 それは家出して出会った人にある。 ワケあってその人…つまり管理人様は現在いらっしゃらないのだが、僕はその恩人にアパートを破格の家賃で借りているのだ。 あの日、全てをその人に話したら、快く貸してくれた仏のような人様なのだ。 ま。そんなこんなで僕が家出して1年。 と、もう、1年も経つのか。 …ドサっ!! っと物音がした。 雨音よりも鈍い音で。 不思議に思って、時間も少し怖かったので反射的に振り向いた。 するとそこに、 黒い塊が横たわっていた。 それが。 それがその夜、黒猫のような、彼女との出会いだった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!