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右京自身が陶芸家になる厳しさを肌身で実感しているからこその意見である。
一時期、父親代わりになってくれた右京を無視して、自分の夢を貫くつもりはない。
人生の経験者の意見をしっかりと受け入れ、律はK大の経済学部に進路を決めた。
そして、推薦枠で合格が決定したので、後は授業を受けながら時間の空いている時は右京の工房へ出向いたり、和臣と一緒にいたりと、満喫している。
他の受験生とは違い、かなり時間が空いているのだ。
生徒会室でのほほんとしていると、亮輔が携帯をいじりながら律に話を振ってきた。
もちろん、最近の親衛隊のトラブルについてだ。
「律、お前は本当に罪作りだな。」
「何が?」
「親衛隊の件。聖アントワーヌ女学院の理事長が、松蔭に詫びを入れたそうだ。」
「・・・。」
「まあ、あのジュリエットが男だとは誰もが思わないだろうがな。」
「亮輔。元はといえば、お前が最後に余計な一言を添えたからこうなっているの・・・解っているのか?」
「俺は本当のことを言ったまでだ。それで問題が起きようが起きまいが、俺には関係ない。」
(この悪魔め!)
予餞会で劇が終了後、亮輔は観客全員の前で和臣の名前と学校名は伏せたものの、ジュリエットが律の恋人であることを暴露したのだ。
当然、律のファンは悲鳴を上げ、律に女の子を取られていた男子は歓喜の声を上げた。
その時、律がいなかったのは怪我で気を失っていた和臣の付き添いで、救急車に乗って行ったため。
戻ってから希に話を聞いて、律は烈火のごとく亮輔に怒鳴ったが、既に遅し。
以来、律は一人で校内を歩いていると女子に囲まれ、予餞会での真意を問われては、本当だと答えた。
それが春休みが終わっても続いたため、休み時間はほとんどを亮輔と二人で生徒会室にいる羽目になったのだ。
「亮輔、俺の平穏な日々を返してくれ!」
「何でだ?お前が春日との関係を暴露すればいいのだろうが?」
「俺はいいんだ。ただ、和臣が嫌がって・・・。」
「春日が?何で?」
「ただでさえ、俺と一緒にいるだけで騒がれてうんざりしているのに、公表して更に騒がれるのは嫌なんだって。」
「なんだ。ただの照れ隠しか。」
サラッと一言で両断し、亮輔は携帯をいじっている。
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