壊したいほど愛してる(1)

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その唇に触れた瞬間、全てが壊れて始まる。 「桂木さん!ほら、しっかりして下さい!」 お世話になって居る、水野さんに促されるまま俺は人込みの中を歩く。 「・・・・やっぱり帰りませんか?」 気が乗らないと言うより、人嫌いの俺は今直ぐにでも帰りたい気持ちになって居た。 「ダメです!少しは人込みになれないと」 「はい」 水野さんはまるでお母さんかお姉ちゃんの様に言うと俺より少し前を歩いた。 (人込みが苦手じゃなくて人が苦手なんだけどな) 俺は何年かぶりに歩く街を見渡す事無く、少し下を向いて歩く。 「・・・・水野さん、やっぱり」 俺は決心して水野さんに言う事を決めると少し前を歩く水野さんを見るとそこには水野さんの姿は無かった。 「・・・・水野さん?いない?何処に?」 俺はどうしたら良いのかわからなくなり、立ち止まり、どん底に居る気分になった。 (どうしよう・・・・帰るにも道がわからないし) 俺は不安でどうしたら良いのかわからずにキョロキョロと周りを見渡した。 「どうした?」 その声は低く、耳に残る声で俺には天の声に聞こえた。 「・・・・あ、あの道が」 俺の前に立って居たのは背が高く、綺麗に整った顔立ちの男だった。 「道?迷子か?」 少し不思議そうに俺の顔を見てから優しく微笑んだ。 「何処に行きたいんだ?」 俺を見る目は優しくまるで子供にでも尋ねる様に声をかけてくれた。 「・・・・あ、プリンセスホテルに」 俺は自分でも情けないが小さな声で言うと彼は聞こえたのか優しく頷いた。 「俺も同じ場所だから」 その言葉に俺は安心してホッとして笑みを浮かべた。 「行こうか」 彼は俺より少し前を歩き、今度は見失わない様に俺は彼の背中を見ながら歩いた。 「あ!桂木さん!っと、東条先生も!」 ホテルの前には先に着いて居た水野さんが待って居た。 「やぁ、水野さん、彼は君の知り合いだったのか?」 彼は水野さんと知り合いだったのか優しく笑みを浮かべながら話しかけた。 「はい、桂木啓太さんです」 水野さんは俺を紹介すると彼は少し驚いた表情をした後直ぐに優しい笑みを浮かべた。 「桂木先生でしたか」 先生と呼ばれるのは苦手で俺は小さく頭を下げた。 「桂木さん、こちらは東条涼先生です」 東条涼、名前は知ってる。 人気の推理小説家で、俺も彼の作品は読んだ事があった。
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