序文

2/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 これは所謂、惚気話である。  恋愛感情など一時の錯覚に過ぎず、そのようなものにうつつを抜かす若人を馬鹿め間抜めド阿呆めと散々罵り嘲笑い、時には唾を吐きかけてきたこの私が、如何にして馬鹿で間抜でド阿呆な恋愛至上主義者へと成り下がったのか。  その一部始終を聞いて涙するも良し、笑うも良し、或いは感化されるもまた良し。  既に売約済みであるからして、私または彼女に惚れることは避けて頂きたいが、しかし私も彼女もその魅力たるや光芒千里に渡り、街を超え海を超え国境を越え、東アジア一帯を遍く悉く恙無く魅了してしまっているのもまた事実であるがゆえに、そう強くは言えない。  他人の成就した恋の話というものは、大体が胸やけを起こす程に甘ったるく、そして銀行で貰える粗品並みにつまらないものであるが、しかし私は誰かに話したくてうずうずしているからして、とりあえず四の五の言わずに聞いて頂きたい。  これは所謂、惚気話である。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!