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男とて、そう追いつかれる様な速度では走っていない。
体内の魔力を脚の付け根辺りから爪先まで、脚全体に寄せ集め、目で追うのも難しい疾さで駆け抜けているのだ。
因みに、このように魔力を一部に集合させたり、大気中に凝集させたり、それを意識的に動かしたりと、そういった技術は単純に総称して"制御"と呼ばれるが、この男はその制御が、常人のそれとは桁違いに巧い。
他の誰かが同じ様に魔力を制御して走ったとしても、これ程疾くは走れないだろう。
それでも距離は縮んでゆく。
当然だ。男が木々を縫う様に走るのに対し、怪物は男目掛けて直線的に猛進する。
走る距離は倍程も違うのだ。
このまま走っても体力の無駄遣いだ。
男は脚に魔力を集中させるのを一旦やめ、且つ走る脚は休めずに腰を捩り、前を後ろを交互に見やりながら右手を怪物にかざし、掌から直径5cm程の小さな赤い光球を4つ造り出し、それを怪物の顔目掛けて放った。
4つ全てが見事に怪物の顔に、その内2つが両眼に当たり、怪物はその場で退け反り、頭を右に左に振り回して苦しんでいる。
「ざまぁ!こりゃ失明ものだろ!」
しかし。
怪物は一頻り苦しむと、唸り声を響かせながら1歩ずつ男に歩みだした。
血が流れてはいたが、その両眼は間違いなく男を見据えている。
「……そんなに怒んなよ」
男は怪物の怒りのボルテージが確かに上昇しているのを感じ、額から冷や汗を流し苦笑いした。
「ゴバアアアアアアア!!!」
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