第一夜

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その森の中、男が怪物と奮闘している場所からそう遠くない場所。 「何だか騒がしいわね。せっかく静かそうな場所を選んで散歩に来てるのに……まあいいわ。あんな窮屈な家に押し込められているよりずっとマシだし、このキャンディさえあれば私はご機嫌なのよ……あたっ!舌が切れたわ!」   森の中の人影は、少し不機嫌そうに呟いたが、気を取り直す様に、棒の付いたキャンディを舐めながら、怪物の声や木々が倒れる音に驚くでも怯えるでもなく歩いている。 こんな時間に女性が1人で散歩とは、危険窮まる。否、こんな時間でなくとも、この森を人間が歩いている事自体が危険な事だ。   「何時間も部屋に缶詰にされて、あんなに仕事させられてたら、誰だって逃げ出したくなるわよ。だいたい、何だって私が家を継ぐ様な話になっちゃってるわけ?魔力が強いとか弱いとかどうでもいいのよ。そんなのお兄様にやらせておけばいいのよ……全く……」   キャンディがあればご機嫌、ではなかったのか、女性は日々の小言を洩らしながら、地面を蹴り蹴り歩く。
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