第1章 炎を纏った少年

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 住宅街を通り過ぎ、横断歩道を渡った先に弘樹たちが通う学校が現れる。  時刻はもう八時二十五分だ。あと五分で本鈴がなってしまうので、靴箱まで走って一瞬で上履きに履き替えると、階段を三段飛ばしで駆け上って教室に飛び込んだ。  その瞬間に本鈴が鳴り響き、わずか二秒の遅れで担任の教師が出席簿を抱えて入室してきた。  軽く息を切らしながら深く席に腰掛けた弘樹は、間一髪で間に合ったことを安堵しながら礼をし、机の中に手を突っ込んで一時限目で使う数学の教科書の探索に入った……。                   何事もなく午前中の授業が終わり、教科書やノートを机の中に突っ込んだ弘樹は、カバンから弁当を取り出して教室を出た。  廊下を歩く生徒は二種類に分けられる。一つは学食に向かう連中と、もう一つが隣のクラスの友人のところで弁当を食べる連中だ。  しかし、弘樹に限っては第三の選択肢が存在する。  廊下を歩いて階段を一気に下り、さらに廊下を歩いて靴箱につくと上履きから靴に履き替える。  そして校門を出てしばらく歩道を歩いていくと、木々に囲まれた小さな公園が見えてくる。  弘樹は普段ここで食事をしていた。土曜日や日曜日は小学生たちで活気に溢れるこの公園も、今の時間帯では誰もおらずに実に寂しげだ。  だが、かえって食事には最適な環境といえる。  風通しもよく、頭上高く昇った太陽の光は真冬といえども温かく自分を包んでくれる。  ついでに言えばここの自販機は他のよりも値段が安いことも理由の一つだ。  さて、公園の黄色い柵を抜けて青いベンチに腰掛けた弘樹は、一旦弁当をベンチに置いて自販機で350ミリリットル缶の茶を八十円で購入し、ベンチに戻って弁当を膝の上において包みを開いた。
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