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箸を取り、白米を摘んで口に放り込んで咀嚼する。周囲の木々から聞こえる小鳥の声が耳に心地よく、ふと空を見上げたら小さな羊雲が三つほど浮かんでいた。
ああ、これが平和っていうものなんだなぁ。
と長閑な雰囲気を満喫しながら食事を続けていたら……前方に植えられた腰くらいの高さまで伸びた垣根から物音が聞こえた。
最初は野良犬か野良猫の類かと思ったがどうも様子がおかしく、ベンチに弁当を置いて垣根に向かう。
念のためにいつでも迎撃できるように腰を低くしながら垣根を掻き分けて、ガサガサという音がする方向へ進んでいくと……女の子が倒れていた。
淡い緑の草の絨毯に突っ伏しているその少女は、紅く頬まで伸びた髪が非常に目立ち、力なく伸ばしきった腕はピクピクと痙攣しており、震える指先が垣根の枝を揺らしている。
音の原因はこれだ。 今まで経験したことがない状況に弘樹は困惑する。
――なんだ……行き倒れか? まさか死んでないよな? なんでこんなところに倒れてるんだよ? しかも女の子だぞ? お、落ち着くんだ弘樹。こういうときはまず冷静にだな、
「…………た」
「は?」
あれこれ考えていると、女の子の口から微かに声が漏れたのを聞き取った。
本当に小さな息声だったので聞き取れず、弘樹は気になって少女の口元に耳を近づける。
「…………した」
「なに? もっとハッキリと!」
「…………お腹……空き……ました」
「ぶっ! あっはっはっははっははは!!」
予想外の返答に思わず吹き出してしまった弘樹は爆笑を抑えきれずに地面を何度も平手で叩きまくる。
しかしあまり悠長に構えているわけにもいかないようなので、すぐにベンチに戻って弁当と茶を持って垣根の中に戻り、弁当箱の中にある唐揚げを箸で摘んで少女の鼻に近づけた。
すると少女の鼻がピクピクと動き始め、口の端からは涎が滝のように溢れ出ている。
同時に少女の腹から雷鳴の如き腹の虫の音が轟いたので、弘樹は笑いを隠せないまま唐揚げを少女の口元にまで運んでやった。
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