第1章 炎を纏った少年

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「はぐっ!」  見事に食いついた。箸ごと咀嚼されそうだったので慌てて引き抜くと、あっという間に唐揚げを飲み込んでしまい、突然腕が動いて呆然としていた弘樹の手から弁当箱を奪い取り、あとは恥などかなぐり捨てておかずや米を手掴みで小さな口に運んで食べまくる。  小さな体にしては見事な食いっぷりで、正面から眺める弘樹は見ているだけで腹いっぱいになった気がした。  せめて美味いか不味いかくらいは言って欲しいな……。  そう内心呟いていると、唐突に少女の食べる勢いがぴたりと止まった。  もう食べ終わったのかと思って弁当を覗いてみたが、まだ半分くらいは残っている。  ふと顔を上げて今度は少女の顔に目を合わせると、少女の顔色がみるみるうちに青ざめていくではないか! 「お、おい! 無理するなよ! ほら」  慌てて缶の茶を差し出すとそれも引っ手繰るように受け取って、豪快に首を仰け反らせて喉を鳴らしながら茶を飲み干した。 「ぷはぁ! 死ぬかと思いました……」 「たく、慌てて食べるからだよ。口の大きさ考えて食べろよな」  呆れながら口周りに米粒をつけた目の前の少女を改めて見てみると、先ほどの食いっぷりからは想像できないほどに体つきが小柄だ。  目測で140前後といったところか。  髪は頬まで伸びた紅い髪で、一部が少しだけ外にはねている。  瞳は淡いエメラルドグリーンだ。服装はこの季節にしては薄着で、何の繊維かは分からないが黄色い布で織られた長袖の上着の下に赤いシャツを着ている。  また、下半身は白いスカートと長ズボンを穿いていた。靴は皮のブーツ。  どう見ても日本人には見えない。一体何処から来たのだろうか?  ていうか、この娘また食べ始めてるし……。  気がつけば少女は弘樹の手から箸を取って食事を再開している。  箸のことを変わったフォークとでも思ったのだろうか?  日本人である弘樹からしたら少し腹が立つ使い方をしている。右手に箸を二本ともしっかりと握って先端でおかずを突き刺して口に運ぶ。  まるで二歳児を見ているような気分だ。非常に一言文句を申し上げたい。  まあ、外国から来たのだろうから、この問題は流しておこう、と弘樹は半ば諦めた。  ともかく何か事情を聞いたほうがいいと思い、弘樹はまだ咀嚼を続けている少女に話しかけた。
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