第1章 炎を纏った少年

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「ね、ねぇ」 「ふぉえ? ふぁんでふか?」 「あ、あのさ……何でこんなところで倒れてたの? しかも空腹で」  質問された少女は噛んでいたおかずを飲み込んで答える。  その顔は言い難そうに俯いていた。 「あのぉ……出来ればそのことについては触れないで欲しいんです。わたしは、とある人を探すために凄く遠くから来ました。だけど身寄りが無いので寝床も食べるものも無くて、気がついたらこの草むらに……」  不憫だ。何が不憫かって色々と不憫だ。  しかし人探しの一人旅とは珍しい。一体どういう事情なのか気になったが、本人が知られたくない事情を抱えているなら言い出すわけにもいかないだろう。  ならせめて探している奴の名前くらいは聞いてもいいかと思った。 「探してる人は、この町の住人なのか?」 「はい。そうだと聞いてます」 「名前さえ教えてくれれば、住んでるところを教えるよ? この町ってそこまで大きくないから、誰が何処に住んでるかは大体知ってる。事情が聞けなくても、それくらいは手伝えると思うけど」 「そ、そんなの駄目です! 助けていただいた上に手伝ってもらうなんて……」  少女はめちゃめちゃに手を振り回して遠慮する。その慌て様が妙に可愛く思えた。  すると、少女は空になった弁当箱と箸を丁寧に草むらに置き、元気良く立ち上がって弘樹に深々と頭を下げた。 「助けていただいて、ありがとうございました。心配してくれる気持ちはとても嬉しいですけど、もうお会いすることはないので、どうかわたしのことは忘れてください。では!」 「あ、ちょっと!」  弘樹が止めるのも聞かずに少女は走り去ってしまい、その背中が見えなくなるまで無言で見送る。  不思議な女の子だった。一体何処から来て、誰を探しているのだろう?  また道端で倒れたりしないだろうか?  早く探している人が見つかるといいな……。  一度大きく息を吐いた弘樹はそそくさと弁当を仕舞って、チャイムが鳴らないうちに学校へ戻ることにした―――。 「はぁ、疲れた」  夕日に照らされながら弘樹は机に突っ伏した。無理もない。 まともに昼食を食べないまま午後の授業を受けた上に、最後の六時限目の授業が体育で、しかも冬ということで五キロマラソンをやらされたのだから。
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