第1章 炎を纏った少年

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 胃袋は空腹を通り越して苦痛に変わっており、最後の希望で購買の売れ残りを貰おうかと思って一階の売店に行ってみたが、見事にシャッターが下りているではないか。  しかしあまりぐずぐずしている時間も無い。  今日は放課後に道場へ師範の見舞いに行くと決めているのだから、あまり遅くに行ったら迷惑がかかってしまう。  仕方なく空腹を訴える腹を抱えたまま校門を出て、すぐ近くにあるバス停で次の便を待つことにした。  次のバスは16時40分……あと15分ほど待つことになる。  正直暇だ。いつもなら部活に出て少し体を動かしているのだが、先週の大会で優勝した褒美としてこの一週間は部活が無しになっている。  どうしてもというヤツは、個人的に顧問か主将の弘樹に稽古を申し込んでくるが、今日に限っては誰もいないようだ。 ――暇つぶし対策といえば……指先から火を出して眺めることくらいか。  火は嫌いじゃない。先の方が揺れるのを見るとなぜか心が落ち着くし、少し力加減を変えてやれば赤だけじゃなく蒼い火も出せる。  なんだってこんな力が宿ったのかは、今でも不思議に思えてならない。  両親に相談したときも、俺は随分と困惑していた。勿論両親……特に母親は驚きのあまりイスから転げ落ちそうになっていたものだ。  だが、落ち着いて話を聞いてくれた父親は弘樹に強く言った。 「理由は知らないが、その力が宿ったのは決して偶然じゃない。きっと何か意味があることだ。必ずその力が役に立つときがくる。が、絶対に力の使い道を間違えてはいけない。強い力は使い方を間違えると自分にとってマイナスとなるものだ。歴史を見れば分かるだろう?  だが同時に、その力は必ず人様の役に立つときが来る。とにかく、今はその力を使いこなせるように努力することだ。僕も少なからず協力しよう」  この言葉が自分に道を与えてくれたと今でも思う。  だが……その夜から数日が経ったある朝に父親は新聞を眺めていたと思いきや、 「もっと宇宙を感じるところに住みたいっ!!」  と絶叫してその日のうちに家を出て行ってしまった。  弘樹も母親も呆気に取られて引き止める暇もなく、連絡を取ろうにも父親は家に携帯を置いていってしまったので、今となっては何処で何をしているかなど知るところではない。  さて、あれこれ思い出しているうちにバスが来た。
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