第1章 炎を纏った少年

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 プシューッと扉が開いて整理券が顔を出し、バスに乗り込む際に整理券を引き抜いて席に座る。  車内には運転手以外誰もいない。  扉が閉まり、バスが発車する。  弘樹は窓枠に肘を付けて頬杖をしながら沈んでいく夕日を眺めた。  濃いオレンジ色の夕日の光が、薄暗くなった空に浮かぶ雲を照らしているのが幻想的で心が癒される。  昔からこういう空は好きだった。理由はとくにない。強いて言えば、色が火に似ているからだろうか?  そういえば、昼間に出会ったあの子は今頃どうしているんだろう?  ふと弘樹の脳裏に昼間の公園で会った少女の顔が出てきた。  見ず知らずの人がこんなに気になるのは初めてだ。  やはり行き倒れになっているイメージが強いので心配してしまうのだろうか?  もしも次に会えたなら、もう少しだけ話をしてみたいものだ。  多分もう無いのだろうけど……。 「毎度ご乗車ありがとうございます。次は、小松~。小松でございます。御降りの方は、お近くのボタンを押してください」  車内アナウンスが流れ、弘樹は無意識のうちに頭上のボタンを押していた。  バスが停車し、整理券と料金を支払ってバスを降りた。  弘樹は国道から枝分かれになっている小道に入り、コンクリ製の河を眺めながらしばらく歩いていくと民家の間に異様な雰囲気を漂わせている純和風の屋敷の門が見えてきた。  門の前に立って見上げてみれば、そこには『天神一刀流』と清水寺で今年の一文字を書くための大筆を使ったのかというほどに大きな行書体でそう書かれた看板が掲げられている。  天神一刀流は戦国時代初期に考案された流派で、その道の者なら知らぬものはいないと言われた剛剣だ。  しかし時代の流れと共にこの流派も人々から忘れ去られてしまい、決定的になったのが公の競技の種目が剣術から剣道へ変わったことだろう。かつては百人を超える門下生がいたこの道場も、今となっては弘樹一人になってしまった。  この門の前に立つと自然と身が引き締まる。  息を整え、服に乱れが無いか確認して、弘樹は門を大きく叩いた。 「たのも~!」
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