第1章 炎を纏った少年

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「どうしたの? 誰かと喧嘩でもしたのかい?」 「違うよ。ただ、卒業という名の破門式だっただけだ」 「は? あ、ちょっと! アンタご飯は!?」  母親の声を無視して階段を上がり、自室に入るとベッドに飛び込んだ。  そして手にしている丸まった賞状を机の上に放り、仰向けになって暗い天井をジッと見上げる。 「はぁ~~~~~~~~」  魂まで抜けてしまうのではないかというほどに長い溜息を吐き、頭の中では師範の言葉がヘヴィローテーションされていた。  もう帰りなさい、もう帰りなさい、もう帰りなさい、もう帰りなさい、もう帰りなさい、もう帰りなさい、もう帰りなさい、もう帰りなさい――。 「だぁ――っ!! イライラする! もう家に帰ってるっつーの!」  寂しさや脱力感がイライラに変化し、髪を掻き毟りながら枕を何度も殴りまくる。危うく腕から炎を出してしまいそうになったので止めた。  ついでに昼間から何も食べていないので、腹が立ったのと同時に今まで忘れていた猛烈な空腹感が襲い掛かってきた。 「腹減った……飯食べよっと」  ベッドから起き上がり、部屋の明かりを点けて台所に向かう。 食卓にはラップに包まれたおかずが置かれており、母親の姿は既になし。気を使ってくれたようだ。  茶碗に飯を注ぎ、イスに座って箸を取る。  いつもと変わらない夕食のはずが、今日はどことなく冷めた感じがした。  翌日、結局熟睡できなかった気だるさを抱えたまま目を覚ました。  こういうときは朝練にでも出て体を動かした方がスッキリするので、弘樹はいつもよりも早めに仕度を済ませて壁にかけていた竹刀を袋に入れ、朝食の握り飯を頬張りながら家を出た。  今朝は昨日ほど寒くはない。が、空には一面の灰色雲が広がっているから、少し気温が下がったら雪が降ってきてもおかしくないだろう。  急ぎ足で学校に辿り着き、人気のない剣道場の鍵を開けて中に入る。  道着や竹刀がきちんと整備されているのは立派だと思う。こういうところから、その者が強いか弱いかがハッキリと分かれてくる。  剣術部は剣道部と違い、より実践的な技術を磨くためにあるのだから。
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