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「ミオ……どうしたんだよ? か、顔が怖いぜ?」
必死に平常心を保とうとするが弘樹の声は引きつっている。
明らかにミオの様子がおかしい。
というより、彼女の口から語られた村での惨劇と今のミオの表情が酷似している。
正直に叫びたくなった。
イヤ――ッ!
助けてくれ!!
殺さないでぇ!! と。
そんなことを考えている間にも、ミオの微笑んだ顔はどんどん近づいている。
しかも凄まじい力で両腕を抑えられているために身動きが取れない。
「ミオ! しっかりしろ! 正気に戻るんだ!!」
「ふふふ……何を言ってるの? 私はこんなに元気なのに。あのね、私凄くお腹が空いたの。だから……大人しく餌になりなさい」
妖美に口から突き出された彼女の舌が弘樹の首筋を撫で、いよいよ白い犬歯が首に突き立てられようとしたとき、弘樹は決断した。
「仕方ない。熱いけど我慢しろよ!」
弘樹はベッドに押し付けられている両腕に意識を集中させ、能力を発動して紅蓮の炎を燃え上がらせた。
「きゃぁ!」
流石に熱かったのかミオは弘樹から離れる。
その隙に弘樹はベッドから飛び降りて、一直線に部屋の出口に向かう。
全速で走れば、ミオよりも早く面積が広い礼拝堂に行けるだろう。
後は成るように成れ!
そう思って、部屋の扉に向かって三歩ほど走ったとき、背後から異常な気配を感じたので直感的に体を床に伏せた。
すると扉の方から、ズドン! という音が聞こえたので顔を上げてみると、さっきまで座っていたベッドが何故か入り口を塞いでいる。
――まあ……この中でベッドを投げれるのは、どう考えても一人だよなぁ。
俺じゃないもんな。
今この部屋にいるのは二人だから、俺を抜いたら一人だよなぁ。
2引く1は1だもんなぁ。
うん、小学生でも分かるよ…………マジ怖ぇ。
震える頭をゆっくりと背後に向けると、右手首をほぐしているミオが笑っているのが見えた。
「ふふ、もう逃げられないわね。大人しく私に食べられなさい」
本当はとてつもなく恐ろしかったが、弘樹は立ち上がりながら不敵に笑う。
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