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「へへっ、そう簡単に死ぬ気は無いぜ? 俺に近づくと火傷するぞ。すっげー熱いぞ」
と言ってみたのはいいものの、実際なところ弘樹は完全に無防備だ。
剣も無ければ盾も無い。
部屋の中にも武器になりそうなものなど全く見当たらない。
かといって素手で勝てる相手でもない。
絶体絶命、八方塞がり、四面楚歌……とにかくピンチという意味合いの言葉が次から次へと脳裏に浮かび、頭の中で必死に戦術を考える。
残された武器は己の炎のみ。
これで何とか時間を稼ぐしかない。
後はミオの怪力をまともに受けないこと。
おそらく、受身をしたところで何本か骨は持っていかれる。
それどころか腕がもぎ取られることも十分ありえる。
問題はミオのスピードだが……。
「そう……なら、少しは私を楽しませてね。おいしそうな獲物さん!」
「速いッ!?」
そう感じたのは部屋が狭かったからだろうか?
兎にも角にも、ミオは一歩踏み込むと凄まじい瞬発力で間合いを一気に詰め、弘樹の顔面目掛けて女の子らしからぬ拳を振り下ろしてきた。
すぐに弘樹は左に避けると、鈍い音が響き、弘樹が立っていた場所がひび割れながら大きく凹んだ。
なんという力だろう。
弘樹の予想を大きく上回っている。
流石に、石の床を砕くとは思っていなかった。
あれでは人の体などひとたまりも無い。
「ちょっと、ヤバイか……」
「さあ、上手く避けないと死ぬわよ!」
今度は回し蹴りが飛んできた。
一体どこで武術を習ったのかは知らないが、キレのある素晴らしい蹴りだ。
凄く恐ろしい……。
しかしヴェルディンの神速の刃を見てきた弘樹には避けるまでに十分な余裕があり、さっと首を動かして蹴りを回避すると、右の頬が風圧で傷ついた。
さらにミオの攻撃は続く。
拳や蹴りが嵐の如く襲い掛かり、その悉くを回避していくが、如何せんここは場所が最高に悪いのでミオは徐々に弘樹の回避する動きを見切り始めた。
六度目の攻撃を身を引いて避けたとき、彼女は即座に追撃して、弘樹の腹部に強烈な一撃を加えた。
「ごふっ!?」
衝撃によって弘樹は出口とは正反対の壁にたたきつけられた。
口の中が酸っぱいもので満ちる。
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