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鉄臭くないので、どうやら内臓はかろうじて無事のようだ。
それにしても背中と腹が痛む。
体が痺れて動いてくれない。
だがミオにとっては好機であり、ゆっくりと近づいて、弘樹の頬を優しく撫でる。
「もう終わりなの? まだ十分も経っていないのに。まあ、いいわ。これで貴方は死ぬのだから」
ミオの唇が首筋に迫る。
――ああ、これで俺も終わりか。
思えば短い人生だったよなぁ。
ま、これでミオが正気に戻ってくれるなら、それはそれでいいか。
本気でそう考えていると、なにやら後頭部に冷たい風を感じた。
風は壁の奥から吹いている。
どうやらこの先に大きな空間が広がっているらしい。
――もしかして、この先に脱出口があるんじゃないか?
いや、地上に出られなくても、広い部屋なら時間をかせぐことが出来る。
よし、やってみるか!
生きることを諦めかけていた弘樹の胸中に再び生への渇望が湧き上がり、最後に賭けてみることにした。
弘樹は左手を動かして、ミオの両目を覆い隠した。
突然の抵抗にミオは怒る。
「っ……無駄なことを!」
視界を遮られたミオは、愚直なまでに弘樹の顔面に向けて拳を振るった。
だが弘樹は上手く回避し、彼女の拳は部屋の壁にめり込んで大きなヒビが入り、音を立てて部屋の壁が崩れ落ちた。
すぐに大きく息を吸って冷たい隠し部屋に飛び込むと、そこは神殿と同じ蒼い石材で造られた円形の空間が広がっている。
天井もかなり高く、かなり暗くて向こう側の壁が見えない。
しかし弘樹には一つだけ見えているものがある。
この大広間の中央にある、次元の大鏡とよく似た祭壇だ。
そしてその祭壇には……一本の剣が突き刺さっていた。
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