第7章 聖なる王の宝剣

2/33
9516人が本棚に入れています
本棚に追加
/908ページ
 その剣は弘樹だけでなく、狂気を纏うミオですら見惚れるほどに美しいものだった。  不可思議な文字が刻まれた美しい刃は呆けている二人を鏡のように映し出し、白銀の柄は氷の如き冷たい光を放ち、黄金の鍔は誇りと威厳に満ち溢れ、その黄金の鍔をさらに彩る紅い宝玉は紅蓮の炎のような力強い雰囲気を放っている。  だがその剣は、祭壇に突き刺さったまま眠っており、さらに祭壇の四隅に打ち込まれた鎖に絡まれて、決してそこから抜かれないよう拘束されて、弘樹は美しいと思いながらも主人を持たないこの剣がどこか哀れに思えた。  しかしいつまでも見惚れているわけにはいかない。  一体どれくらい時間が経ったのかは分からないが、渇きと痛みによってミオは弘樹への攻撃を再開した。  弘樹は背後の殺気を感じ取って回避する。  先ほどまでは狭い部屋だったので苦戦したが、ここは動き回るのに十分な広さがある。  それよりも、弘樹はどうにかミオの隙を突いて、祭壇の宝剣を抜こうと考えていた。  流石にこれ以上武器が無いのはかなり辛い。  そこで、弘樹はなるべくミオが真っ直ぐ仕掛けてくるのを待ち、ちょうど真正面から踏み込んできたところで全身から大きな炎を出して彼女の目を眩ませた。  後はひたすらに祭壇へ向けて走る!  抜けない場合など全く考慮に入れない。  もとより、このままでは希望などありはしないのだから。  たった一歩で祭壇の階段を登り、ミオがまだ炎の熱に怯んでいる間に弘樹は宝剣の柄を握り、腰に力を入れて引き抜こうとする。  だが剣は微動だにしない。  それは、祭壇に突き刺さっているからでも、四方から鎖に拘束されているからでもない。  何か、別の力によって宝剣は決して抜けないようにしているようだ。  封印されている、といえば分かりやすいだろうか?  とにかく弘樹は全身に力を込めて何とか引き抜こうとするが、どのように引いても持ち替えても宝剣は一切動かない。
/908ページ

最初のコメントを投稿しよう!