第7章 聖なる王の宝剣

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 弘樹は焦った。 ――早く抜かないとミオがやって……来てるし!?  既にミオは体勢を立て直して、こちらに向けて駆け出している。  ここまで来られたら本当に命は無いだろう。  弘樹は歯を食いしばり、何とか剣を引き抜こうとさらに力を込める。  今までこんなに踏ん張ったことはなく、その力はやがて体の奥底に眠る炎の能力にも伝わっていき、体から小さな火花が飛び散り始めた。  目蓋を閉じて暗闇に包まれた眼前には、巨大な炎が燃え盛っている。  ゆえに弘樹は気が付かない。  祭壇に突き刺さる剣を中心に、巨大な紅い魔法陣が浮かび上がっていることに。  ミオは大きく踏み込んで弘樹に向かって飛び掛った。  しかし、魔法陣の外輪を覆う見えない壁に阻まれて祭壇に登ることが出来ない。  もはや彼女は激しい渇きによって獣と化していた。  罵倒の言葉も出さず、ただ憎らしく唸っている。  目の前にいる獲物を引き裂きたい衝動でしきりに指を動かし、金と紅の目が輝き、息は荒く、少しでも渇きを癒したいがためにしきりに生唾を飲んでいる。  そんなことが起きているなど露知らず、弘樹は剣を引き抜こうと必死になっている。  というよりも、寧ろ眼前に燃え上がる炎から目を離すことができない。  剣を握る手は柄に吸い付いているようにがっちりと握り締めている。  眼前の炎はさらに燃え上がり、体から噴出す火花は徐々に炎となり、さらに足元の魔法陣からもオレンジ色の熱気が渦巻き始めた。  炎の渦はすぐに弘樹の体を包み込み、眼前の炎は弘樹よりも遥かに巨大なものへとなっている。  弘樹は腕で目を覆いながらその炎を見上げていると、周りの暗闇が徐々に輪郭を帯びてくるのに気が付いた。  目を凝らし、周囲を見渡してみると、そこは黒こげた大地であった。  大地には巨大な火山の山脈が連なっており、灼熱の溶岩の河が至る所に流れている。  この光景には見覚えがある。  二年前、弘樹が能力に目覚めたときに見たのと同じ光景だった。  しかし弘樹は、あまりの熱さで意識が朦朧となり、目の前が霞んでいく。  彼が最後に見たのは、山脈の中で最も大きな火山が噴火する瞬間と、その紅蓮の溶岩を背景に天高く咆哮する黒く巨大な何かであった――。
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