第7章 聖なる王の宝剣

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 祭壇が巨大な炎の渦で包まれているのを、ミオは静かに睨み付けていた。  理性は失われているが野生的な直感は健在で、陣の中に入れない上にあの炎に飲まれれば一瞬にして炭と化すだろう。  炎の渦の中では、剣の柄を握ったまま弘樹が俯いている。  死んだように動かない。  ただ、彼はいまだ立ち続けている。  別に剣に支えられているわけではない。  弘樹は、意識を失って尚も剣を引き抜こうとしていた。  すると渦の炎によって熱せられた鎖が軋み始めた。  元々古い鎖だったので、渦の高熱に耐え切れなくなり、音を立てて四本ともはじけ飛んだ。  さらに、足元の魔法陣が徐々に大きくなっていく。  ミオは迫ってくる魔法陣に怯えて後ずさるが、あっという間にミオの体も魔法陣の中へ引き込まれた。  紅い魔法陣は部屋全体を包み込み、それと同時に祭壇に突き刺さっていた宝剣の刃が急に軽くなって、意識の無い弘樹の弱力で驚くほど簡単に引き抜かれた。  その瞬間に部屋全体を包んでいた魔法陣の至る所から、爆音と共に巨大な炎の柱が噴きあがり、暗い部屋全体を明るく照らし出す。  一体何が起こっているのかミオには理解できず、炎の柱を見回しながら祭壇に目を向けると、炎の渦が消えて右手に宝剣を持ったまま立ち尽くしている弘樹を見た。  刀身の長さは140センチ、幅は6センチほど。  しかし重量は普通の剣と然程変わらない。  否、寧ろ普通の剣よりも若干軽い。  といったところで今の弘樹には何も感じない。  彼には意識が無い。  あくまで……安藤弘樹としての意識は――。  炎の渦が消えたことで獲物への攻撃が可能となり、ミオの顔に笑みが零れる。  すぐにでも引き裂いてその体から溢れる血を吸い尽くしてやろうと、警戒しながら彼女は祭壇へ近づいた。  弘樹に動く気配が無いので、ミオもゆっくりと祭壇の階段に足をかけた。  その時、弘樹は静かに顔を上げた。  警戒したミオが半身を引きながらその顔を見ると、先ほどまでとは全く違う雰囲気に息を呑む。
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