第9章 竜巻と呼ばれた男

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「あ、あの……」 「あぁ? 何だ? 何か用か?」 「ギ、ギルドに会いに来たんだけど……いる?」 「ギルドの兄貴に? お前、誰だ?」 「……安藤弘樹」 「はぁん、おかしな名前だなぁ。ちょっと待ってろ。呼んできてやる」  船員が船の中に入っていくと、三分と経たないうちにギルドが文字通り飛び出してきた。  船の手すりに足をかけて跳躍し、弘樹たちの前に着地した。 「よう! 来ると思ってたぜ」  弘樹の顔を見たギルドは心底嬉しそうに笑っている。 「んで、オレの船に何か用か?」 「それが――」  弘樹は事情を掻い摘んで説明した。  勿論、シクルスの親書のことは伏せて。  樽に腰掛けて話を聞いていたギルドは、説明が終わったのと同時に膝を叩いた。 「よし! 任せろ。オレたちが連れて行ってやる」 「本当か!? 助かるよ」 「なに、ちょうど暇してたところだ。早速出航の準備をするからよ、お前らは船室でくつろいでくれ。  にしても、随分とちっちぇ連れだな。嬢さん幾つだ?」 「……十九です」 「んだと!? オレ様と同じじゃねぇか。こいつは驚きだ。悪かったな」  笑いながらギルドはキヌアの髪をグシャグシャと撫で回し、大きく手を叩くと、くつろいでいた船員たちが一斉に動き始めた。  どうやら、ギルドがこの船の船長のようだ。  十九歳で船長とは、随分と自由な船なのだろう。  ハシゴを上って甲板に立つと、微妙に船が揺れていてなんとも心地いい。  甲板の所々には、綺麗に巻かれたロープが置いてある。  船室に行くとき、ふとキヌアがギルドに聞いた。 「ギルドさん。このお船って、何の船なんですか?」 「なに、ただの漁船だ。少しばかり沖の方に行くんで、こんな図体になっちまったんだ。それがどうした?」 「いえ……なんでもないです」  どこか含みのある声で答えたキヌアだったが、それから大人しく弘樹と共に船室の中に入った。  船室は決して広いとは言えないが、ちゃんとテーブルとイスが四つあったのでくつろぐ分には問題ない。  丸型の窓もあるので、外の様子がよく分かる。  外からギルドの号令が聞こえてくる。
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