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「出航だ! 錨を揚げて帆を風に合わせろ!」
「わかりやした!!」
やはり海の男は威勢が良い。
三十分も経つと、船は銀波を浴びながら大海原へと進出した。
正直船旅は初めてなので、弘樹は自然と胸が躍った。
だがキヌアは、どうもそういう雰囲気ではない。
彼女は疑い深い視線で船室の中を見回しており、その様子が気になった弘樹は質問した。
「どうしたんだ?」
「ヒロキさん……この船、おかしいです。さっきギルドさんは、この船を漁船って言ってましたよね?」
「ああ。それがどうした?」
「この船をさっきから見てたんですけど、無いんですよ。網も銛も。
普通、漁船なら必ず甲板に網を置いておきます。これだけ大きな船なら、より大きな網を使いますから、船内に置いていたら不便なんです。でも……無いんです」
――あぁ、そうか。キヌアは昔、漁師のナナシと暮らしていたんだっけ。それなら疑問を感じるも当然か……。
弘樹は内心で納得しながらさらに耳を傾けた。
「ヒロキさん……もしかしたらこの船――」
キヌアが言いかけたとき、船室の扉が勢い良く開かれた。
「よぉ! 無事に出航完了したぜ? っと……邪魔したか?」
船室の暗い雰囲気を察したギルドは両手を挙げるが、いい機会だと思った弘樹が否定する。
「いや、別にそういうわけじゃない。ところでギルドに聞きたいことがあるらしいぞ?」
「ほう。なんだ?」
「ギルドさん……この船は、一体どうやってお魚を獲ってるんですか?
さっきから船を見てたんですけど、網とか無いですよね?」
「あぁ……まあ、オレたちは普通とは違う方法で獲物を取るのさ。気になるなら甲板に出てみろ。ちゃんと網があるぜ? でっかくて頼りになる奴だ」
イスに腰掛けて足をテーブルに乗せるギルドに促されて、俺たちは嫌な予感を胸に抱きながら船室を出た。
すると、あの人相の悪かった船員たちがさらに人相が悪くなっており、手には剣や棍棒といった、物騒な小物を持っておられる。
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