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ふとマストを見上げてみると、先端に黒地の旗が靡いている。
白い髑髏マークが描かれた、黒い旗が……。
「ヒロキさん……やっぱり、この船って」
「ああ。海賊船だったか……」
なるべく自分を落ち着かせて答えたが、内心ではかなり焦っている。
周りは見渡す限りの大海原。
逃げようにも、こんな所では逃げることは出来ない。
だが戦うとなると、あの人数を相手にしなければならない。
しかもキヌアを守りながらでは不可能だ。
正直に叫びたくなった。
――どうか見逃してください! と。
情けない話だが、それ以外思い浮かぶ言葉があるだろうか?
弘樹とキヌアが呆然としていると、背後の船室からギルドが出てきた。
目を向けてみると、先ほどの服装に金の刺繍で髑髏の下に交差した槍が描かれた黒い海賊旗のマントと、いかにもといった感じの帽子を被っている。
ギルドは船員たちの前まで移動し、弘樹たちに向き直って大きく手を広げた。
「ようこそ。『竜巻ギルド』の海賊船へ。歓迎するぜ?」
「ハハ……歓迎はされたく無いな。言っておくけど、俺たちは貧乏だぞ?」
声を震わせながら弘樹が言うと、ギルドが鼻を鳴らして笑った。
「ハッ、下手な嘘は止めるんだな。その嬢さんの首に掛かってるのは、間違いなく『青海の星』だ。
それに、お前の背中にある金ぴかの剣も、中々の値打ちがつきそうじゃねぇか。大人しく金目のものを譲ってくれるなら、命は取らねぇぜ?」
「……断ったら?」
「当然、サメの餌になってもらう……と言いたいが、オレはお前が気に入ってるんでね。
オレとサシで勝負して勝ったら、何もせずにアドラスまで行ってやる。そっちが負ければ身包み剥ぐぜ?」
「海賊の言うことが信じられるか! 現に俺たちを騙したじゃないか。自分のことを漁師だなんて」
「オレは嘘なんか言ってないぜ? 海の上に網を張り、他船っていう獲物が掛かったら根こそぎ奪って市場で金に変える。
どうだ、立派な漁師じゃねぇか。まあ、業界用語だけどよ。元来オレは、嘘が嫌いでね。
約束は守る。賊にも誇りくらいはあるぜ? さあ、選びな」
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