第9章 竜巻と呼ばれた男

22/30
前へ
/908ページ
次へ
 決断を迫られた弘樹の額に一筋の汗が流れた。  ――どうする? このまま大人しく荷物を渡すか? いや、それは論外だ。  荷物を渡したら、シクルスの書状も見つかって、国王の使者だって知れたら命はない。なら、答えは決まっている!  弘樹は深く息を吸って、腰の長剣を抜いた。 「ヒロキさん!」 「お前は下がっていろ。ギルド、キヌアには手を出すなよ?」 「ああ。女子供に手を出すことは掟に反するからな。安心しろ。しかし、嬉しいぜ。お前が期待通り骨のある奴だったことが」 「褒められても嬉しくないね。さっさと始めようぜ……」  見たところ、ギルドに得物は無い。  武器のない相手に剣を向けたくはないが、状況が状況だ。止むを得ない。  だがギルドは笑っている。  無防備の状態で、頼りの仲間たちも離れているというのに、ギルドは未だに余裕の笑みを浮かべていた。 「くっくっく、それでいい。それじゃおっぱじめるぜ! 相棒!!」  ギルドが天高く右腕を伸ばすと、ギルドの手を中心に猛烈な風が巻き起こり、弘樹は甲板に剣を突き刺して、必死に飛ばされないように踏ん張った。  そして風が収まり、眼を開けてみると、いつの間にかギルドの手には二メートルほどの銀の槍が持たれている。  形状は鯨銛によく似ていた。 「どこから……槍が?」 「驚いたか? だが、すぐに落ち着かせてやるぜ!」  二、三回槍を回転させながら、ギルドは弘樹に向かって踏み込んだ。  すぐに弘樹も迎撃の態勢を取る。  互いの間合いに入り、ギルドが槍を突き出し、弘樹が剣の刃を穂先に当てて上手く受け流す。  槍の体に刃が擦れ、激しい火花を散らしながら二人は交差した。  だが息をついている余裕など無い。  すぐにギルドの攻撃が繰り出された。  横に振るわれた槍を屈んで回避し、今度はこちらから剣を振り下ろしたが柄で防がれ、さらに剣を横に振るったがそれも防がれる。  また、ギルドから繰り出される猛烈な槍の連撃に弘樹は舌を巻く。
/908ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9515人が本棚に入れています
本棚に追加