第9章 竜巻と呼ばれた男

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 しかし弘樹とて炎の能力者であり、カルナイン最強の剣士であるヴェルディンの弟子。  そうそう心臓を貫かせるようなことはない。  自分の直感を信じ、渾身の力で剣を振るった弘樹は、ギルドの必殺の一撃を何とか受け流すことが出来た。  だが代償に、弘樹が握っていた長剣は衝撃に耐え切れずに粉々に砕け散った。  その様子をキヌアも海賊たちも固唾を呑んで見守っている。  剣が折れたことに内心舌打ちしながら、弘樹は五メートルほど離れた場所に立っているギルドをにらみつけた。  ――アイツは風の能力者。俺の他にも能力者がいたなんて……これは、こっちも本気を出さないと駄目らしい。  弘樹が考えていると、勝利を確信したギルドが笑いながらこちらに向いた。 「勝負あったな。オレの勝ちだ。さあ、観念して金目のものを出してもらうぜ?」 「……悪いけど、まだ終われないな」  弘樹は手を後方に伸ばし、背中に縛り付けていた宝剣イスカリオンの柄を握り、ゆっくりと背から外してその美しい姿を現した。 「頼むぞ、イスカリオン」  改めて握るイスカリオンはやはり軽い。  右手で握り、切っ先を甲板に突き刺すと、宝剣の刃に紅蓮の炎が纏った。  それを見たギルドは口先を尖らせる。 「ほぅ……まさか、テメェも」 「ああ。炎の能力者だ。流石に、もう手加減は出来そうに無いんでね」 「くっくっく……はっはっは! こいつはいい! 最高だぜ!! 一度能力者同士で戦ってみたかったんだよ!」  笑いと共にギルドの風はさらに勢いを増していく。  もう、彼の体から上空に巻き上がる旋風が肉眼でも見えた。  対して、こちらも炎の勢いを上げていく。  炎と風……二つの巨大な力が、今、激突しようとしていた。  最初に仕掛けたのは弘樹だった。  炎が渦巻く紅蓮の刃がギルドに迫り、烈風を纏う白銀の槍がそれを防ぐ。  刹那、弘樹の頬が風で切れ、ギルドの頬が飛び散る火花で火傷した。  だが二人はなんとも感じていない。  目の前の敵……ただその一点に集中していた。image=359155573.jpg
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