第9章 竜巻と呼ばれた男

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 再び怒涛の攻防が始まった。  疾き風が弘樹を斬りつけ、灼熱の炎がギルドの力を侵掠する、人知を逸脱した戦いである。  先ほどまで打ち合うごとに軋んでいた長剣に比べ、このイスカリオンはかなり余裕がある。  いや、むしろ、相手のウィンディルグの方が劣っているように思えた。  しかし、武器の性能を抜いた場合、弘樹の剣技とギルドの槍術は全くの互角。  互いに傷つきあいながらも一向に決着は見えてこない。  それも当然。  互いに、能力同士の戦いなど経験したことが無いのだから。  弘樹は十合、二十合と刃を交えるにつれて、徐々にこの戦いが楽しくてたまらなくなってきた。  無論ギルドも同じである。  いつしか、二人の顔には笑みが浮かび、互いの実力を心から認め合っていた。  そして五十合目を弾きあったところで双方の間合いから出た。  息を切らし、火傷まみれの頬を緩めながらギルドが言う。 「はぁ……はぁ……流石に、これ以上はキツイぜ。次の一撃でケリ着けねぇか?」 「あぁ……こっちも……そろそろ限界だ」 「へへ……だろうな。いくぜ、相棒!」  ギルドのウィンディルグが再び風に包まれた。  そしてギルドの足からも風が吹き出し、彼は大きく跳躍し、風に包まれた穂先を弘樹に向ける。 「喰らえ! ストライク・ウィンド!!」  それは、まさに竜巻であった。  槍の穂先から渦巻く風は、すでに風ではなく嵐の類となっている。  弘樹はこれに真っ向から勝負した。  ――相手は竜巻……なら、俺は今、火山となってみせる!  ありったけの力を刃へと注いだ。  刃に纏っていた炎はその輝きと温度をさらに増し、美しい刃は紅に染まり、周囲の甲板に次々に燃え広がっている。  弘樹はしっかりと両手で剣を握り、迫り来る竜巻をジッとにらみつけ、一度眉が動いた瞬間に思い切り踏み込んで跳躍し、渾身の力を以ってイスカリオンを一閃した。 「炎舞・斬焔!!」  巨大な炎の刃が竜巻に襲い掛かり、竜巻は真っ赤に燃え上がりながら炎に相殺されてギルドを覆い隠していた竜巻が消えた。  しかしギルドの勢いは止まらない。  彼は風が消えて尚、穂先を真っ直ぐに弘樹へ向けていた。  一方の弘樹も今の一撃で決まるとは思っていない。
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