第9章 竜巻と呼ばれた男

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 すぐに剣を握りなおし、二人は交差する瞬間、互いに一振りだけ得物を一閃した。  甲板上で見上げていたキヌアと海賊たちは、一体どちらが勝ったのか全く分からない。  やがて甲板へ着地した弘樹とギルドは、背を向けあったまま微動だにしない。  時の流れが限りなく遅く感じられ、聞こえるのは船に打ち付ける波の音のみ……。  そのとき、少し強い風が甲板を吹きぬけ、激しく燃え上がっていた炎を吹き消した後に風も消えていった。  これが、二人の決着を表していたのかもしれない。  風が止んだ瞬間、ギルドが槍を肩に担いで弘樹に体を向け、槍を甲板に突き刺して柄にもたれながら微笑した。 「へへ……分け、だな」  それに応じて弘樹も向き直り、甲板にイスカリオンを突き刺した。 「ああ……それで、俺たちをどうするつもりだ?」 「参ったねぇ。引き分けた時の事なんぞ考えてなかったぜ。まあ、身包み剥ぐのは暫く保留にしておいてやるよ」 「サンキュ。で、アドラスへは?」 「連れて行ってやる。言っただろ? オレは約束は守るってよ。しっかし、熱いもんだねぇ。お前の炎は……」 「お前の風だって、随分痛かったぞ」 「ああ、そいつは悪かったな。くくく……」 「ははは……ははははは!」 「だっはっはっは!!」  静まり返っていた甲板に二人の笑い声が響き渡り、その後、互いに固い握手を交わして二人の戦いは終わりを告げた…………
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