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『いっでぇ!』
「ジッとしててください!」
戦いが終わってから三十分が経過し、現在弘樹とギルドは、キヌアによる治療を受けている。
弘樹は切り傷に効く消毒液に苦しみ、ギルドはキヌアによって乱暴に塗りたくられる火傷用の軟膏に苦しんでいる。
なぜだか知らないが、今のキヌアはえらくご立腹の御様子。
「いたた……なんでキヌアが怒ってるんだよ?」
「怒りますよ! 人がどんなに心配したと思ってるんですか? 少しは反省してください」
「へっ、威勢のいい嬢さんだ」
「元はといえば、ギルドさんの所為なんですからね! 手当てしてもらってるだけ有難いと思いなさい!」
「っで!」
キヌアにビンタ同然でガーゼを貼り付けられたギルドは、頬を擦りながら、歯を食いしばっている。
あれから色々と話してみたが、やはりギルドはかなりいい奴だった。
いや、海賊という時点でいい奴というのもおかしいのだが、実は最初から金目のものを奪うつもりでもなかったらしい。
本当は、風の噂で聞いていた弘樹と、一度戦ってみたかったのだそうだ。
わざわざアドラス行きの船の船員を酔い潰させてでも……。
「何で俺たちがアドラスに行くって知ってたんだ?」
「ヘッ、こっちの情報力を舐めるなよ? この町には腕のいい情報やがうじゃうじゃいる。町に入ってきた連中のことは、結構早く分かっちまうんだ。
お前みたいな有名なやつは特に、だ。町の入り口で、今日アドラスへ行くと譲さんと話してたろ? それを狙ったってわけだ。
それにしても、驚いたぜ。オレ以外にも妙な力を使う奴がいるとはなぁ」
「俺も同感だよ。ギルドは、いつ能力に目覚めたんだ?」
「あぁ……まあ、そいつを話していると長くなっちまうから、また今度な。
それよりも飯にしようぜ? 戦った後は、腹いっぱい食うのが一番だぜ」
そういえばさっきから美味そうな匂いが漂っている。
ギルドが言うのには、既に下の厨房で食事の準備が進んでおり、そろそろ出来た頃とのこと。
体を思い切り動かした上に、かなり能力を使ってしまった弘樹は空腹を感じたので、ギルドの言葉に甘えることにした。
階段を下りていくと、狭い廊下の先にある扉が開いている。
中に入ると、白いねじり鉢巻きを頭に巻いたヒゲ面の男が料理を小さな机に運んでいた。
「よう、飯出来てるか?」
「出来てますぜ。お客人も座ってくだせぇ」
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