第9章 竜巻と呼ばれた男

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「へぇ~、ボトルシップが趣味なのか?」 「まあな。長い航海をしていると、妙な趣味が出来ちまうもんだ。適当なところに座ってくれ」  と言われても座る場所が無かったので、仕方なくギルドのベッドに腰掛けた。  ギルドは机の前にあるイスに座って大きく息を吐いた。 「ふぅ……アドラスには、明日の朝には辿り着く。その先はブレストへ繋がるマーメリアの海だ。  この前、ブレストの高速船が全速で飛ばしていたが、何かあったのかねぇ」  天井を見上げながら呟いたギルドの言葉に、弘樹は一瞬ドキリとした。  最も、本当に焦ったのは次に出てきたギルドの言葉にだが。 「ところで、お前ら何者だ? なんでアドラスへ行きたい?」 「え?」 「え? じゃねぇよ。一応お前らはお客だが、こちとら王立軍の哨戒を潜ってアドラスまで行ってやるんだ。  お前らが何者で、何の目的なのか知らねぇと、何かあったときに部下に申し開きが出来ないんだよ」  確かにギルドの言うことにも一理ある。  弘樹は暫し考え、キヌアの正体以外のことを正直に説明した。 「俺たちは、国王シクルスの親書をアドラスの領主に届けに来たんだ。もうすぐ始まる、ブレストとの戦を知らせに」 「ほう……ってことは、カルリースから来たってことか」 「ああ。大山脈を越えて来た」 「なるほどな。しかし、ブレストとドンパチを始めるとは、シクルスってのも大分馬鹿なのかねぇ」 「違う。これはシクルスの意思じゃない。ブレストを宰相のトタクが乗っ取ったんだ」  弘樹が少し力強く言うと、ギルドは口を歪ませた。 「……こいつは随分とややこしい話みたいだな。まあ、とりあえずは分かったぜ。  それだけ聞けば十分だ。安心しろ。ちゃんとアドラスまで連れてってやる」  自信満々に言う彼の態度に弘樹は疑問を感じた。
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