第10章 復讐の槍

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 ブレスト帝国より遠く西に広がる海原に、帝国の統制下に置かれた『ハウェーティア』という島がある。  島自体はあまり大きくなく、美しい海と浜だけが自慢の何の変哲も無い孤島。  しかし、そんな小さな島にも、立派な屋敷と教会があった。  屋敷に住んでいるのは、お世辞にも善い人柄とは呼べない島の領主。  対して『レーディン教会』に暮らしている神父とシスターは、島に暮らしている人々から大変評判のいい人柄であった。  ある日、シスターが夕食に使う貝を浜で拾い集めていると、波に揺れながらこちらへ近づいてくる、小さな籠が目に入った。  一体どこから流れてきたのかと思い、浜に打ち上げられた籠を拾ってみると、中には毛布で包まれた赤ん坊が入っているではないか。  吃驚したシスターは貝のことなど忘れ去り、慌てて教会に帰っていった。  神父はそのとき、ちょうど村に暮らしている少年少女に算数を教えているところであったのだが、突然正面扉が押し開けられ、血相を変えたシスターが飛び込んできたので神父は子供たちも、逆にシスターに驚く。 「ど、どうしたんだね? そんなに慌てて」 「神父様! 浜に赤子が打ち上げられました!」  息も絶え絶えにシスターが差し出した籠を覗いた神父は、穏やかに眠る赤子を見て嘆息する。 「これは、これは。何と可愛らしい子だ。浜に打ち上げられていたということは、どうやら親に捨てられたようだね。可哀想に」  赤子の頭を優しく撫でながら毛布に触れると、白い毛布の間に小さな紙切れが入っているのに気付き、傍らに立っていた子供に籠を預けて神父は紙切れを開いた。  そこにはインクで『ギルド』とだけ書かれている。  神父はすぐに、ギルドとはこの赤子の名前なのだと悟って、その日からギルドは教会で育てられることになった。  とにかくギルドはよく食べる子であった。  赤子のときは、シスターが哺乳瓶に入れたミルクを全て飲み干し、足りなかったのかと思って少しだけ追加したら、それも全て飲み干していく。
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