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ところでこのジュースは中々いける。
少し甘すぎるとも思えるが、すぐに飲み干してしまった。
キヌアに関しては、相当な酸味だったにも関わらず、顔は恍惚としている。
その様子に店員も呆気に取られていた。
どうやら、あのジュースを飲みきった人間はいないらしい。
と、すっかりバカンス気分になってしまった。
遊ぶ前に、シクルスからの仕事を終わらせなくては。
「キヌア、そろそろ行くぞ」
「はい! いよいよですね!」
酸味を補給したキヌアはかなり元気になっており、領主の屋敷へ弘樹の袖を掴んで走っていく。
前にも言ったが、もう無駄だと分かっているので弘樹は叫ばない。
領主の屋敷の前にたどり着いた弘樹は、ゆっくりと正門を押し開けて敷地内に入った。
屋敷の庭は一面に芝生が植えられていて、大きなパラソルや犬小屋も見える。
扉の前に立った弘樹は一度深呼吸をしてノックした。
すぐに、中から足音が聞こえて扉が開かれる。
「は~い。どちらさまですか?」
屋敷の中から出てきたのは、紫髪の女性だった。
髪は短く、歳は弘樹よりも少し上の大学生といった感じ。
半そでのオレンジのシャツに蒼い短パンが妙に似合っている。
流石に、もう弘樹は髪の色くらいでは驚かない。
この人が島の領主だろうか?
「あの、俺たちカルリースから来たんですけど……領主様ですか?」
「違うよ? 領主は私のお父さん。いま呼んでくるから、リビングで待っててね」
屋敷のリビングには大きなソファーがあった。
家の中は真っ白な壁で、飾られた花や食器などが何ともお洒落に感じる。
ソファーに座って待っていると、二階から杖をつきながら中年の男性が下りてきた。
立派な黒い口髭が目立つ。
雰囲気からして、確実にあの人が領主だろう。
弘樹とキヌアはソファーから立ち上がって頭を下げた。
「突然お邪魔して、すみません」
「いえいえ、遥々お疲れ様でした。どうぞお座りください。シーナ、お客様にお茶を」
「は~い!」
どうやら、娘さんの名前はシーナさんというらしい。
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