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漁といえば、キヌアの出番だろう。
さて、彼女は今……浜にいた。
波打ち際に体育座りをしたままジッとこちらを眺めている。
「どうしたんだよ? 早く来いって!」
「――!」
何か言っているようだが、ここからでは聞き取れない。
すぐに浜に戻ってみると、キヌアは小さく言った。
「わたし……泳げないんです」
「は? だって、昔は泳いでたんだろ?」
「……トタクに殴られて、冷たくて苦しい海を流れて、おじいさんに助けられてから海が怖くなったんです。そりゃ、近づくことは出来ますよ? でも、泳ぐのは……」
「トラウマ……か」
「はい。ごめんなさい。せっかく、誘って貰ったんですけど…………わたし、そこの茂みで果物でも探しますね。
ヒロキさんとシーナさんは、泳いでいてください。では!」
キヌアは走って木々が茂る林の中に消えていった。
――あいつ……たく、あんな風に言われたら海に戻れないじゃないか。
「シーナ、悪いけど……」
「うん。食材は私が探すから、あの子の傍にいてあげて。私も、そのほうがいいと思う」
「ありがとう」
弘樹はキヌアを追って林の中に入った。
そこまで深い林ではないので十分明るく、奥で樹に実った果物を取ろうと手を伸ばしているキヌアが見えた。
明らかに背が届かないのに、必死になって背伸びをしている。
それがどうにも、可愛く思えた。
「う~ん! と、届きません……」
がっくりと肩を落とすキヌアの背後に静かに近づき、手を伸ばして果物を取った。
「ほれ」
「ふぇ? ヒ、ヒロキさん? どうしてここに……」
「泳ぐのに疲れたから、少し休憩。それより、ここって結構木の実が多いな。一緒に採るか?」
「は……はい!」
キヌアは顔を輝かせて頷き、二人は協力して次々に木の実を採集していった。
夕刻になる頃には、二人の腕一杯に果物やキノコなどが抱えられていた。
一方のシーナも沢山の魚介類を手に入れており、屋敷に戻った三人は協力して夕食作りを始めた。
手から炎を出したときは大層驚かれたが、まあ、いつものことなので流しておく。
出来上がったのは魚介類のシチューと果物のサラダ。
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