序章 鏡の間

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 夜の暗闇によって包まれていた大地を地平から昇る紅の太陽が明るく照らし始めた。  まるで雪のように白く美しい城がそびえる山の麓にある赤いレンガで造られた街は、静寂な眠りから目覚めて徐々に人々が起きはじめている。  人々は井戸端で顔を洗い、朝食の準備をし、港にある市場では商人たちが商売の準備を始めている。  また、赤い街から少し離れた丘の上にある森の中でも、鳥や獣たちが一日の始まりを迎えようとしている。  その森の奥に、朝霧に隠されるように静かに佇んでいる大きな神殿がある。  外壁は全て蒼い石材で構成され、神々しい雰囲気は見ているものの心を洗う。  神殿の中には腕のいい職人によって造られた神像が祀られており、礼拝堂からさらに奥に進んだ先には古びた木製の扉があった。  扉の先の広い部屋は清々しくつめたい空気で満たされており、窓から差し込む朝日が部屋の中を少し薄暗い程度に照らしていた。  光りの先には祭壇があり、祭壇には直径三メートルはあるかという巨大な円形の鏡が祀られている。  鏡には一点の曇りも無く、美しいというよりは、寧ろ恐ろしいと感じるほどであった。  その鏡の前には、一人の少女が静かに目を閉じて両手を絡ませて瞑想している。  少女の髪はふくらはぎまで伸びた滑らかな銀髪で、紅い髪留めによって一つに纏められていた。  身には絹らしき滑らかな繊維の白い着物を着ており、髪留めと同じ色の帯が腰に巻かれて、背中で大きなリボンに結ばれている。  顔つきは非常に整っており、体つきも160センチ前後の少し華奢な美しい少女。  彼女は息をするのも忘れているほどに静かで、一見すると人形と変わらないほどだ。  すると、少女の背後にある古い扉が軋みながら開かれて、眩しい朝日に包まれながら一人の青年が鏡の間に入った。  真っ白な分厚いマントを纏っており、短い金髪を生やした顔は非常に穏やかなもので、小さな鼻メガネがとてもよく似合っている。  彼は手にしていた身の丈ほどもある杖をつきながら、瞑想を続けている少女のもとへゆっくりと歩いていく。  少女の隣に立った彼は少し身を屈めて彼女の様子を見て、困ったように軽く溜息を吐いて静かに口を開いた。 「ミオ、また眠らなかったのですか?」  彼が優しく囁くと、ミオは初めて彼に気がついたのか、目を開けて自分を見下ろしている白い青年を呆然と見上げた。
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