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弘樹は加減が分かっているが、キヌアは分からないので本当に本気で殴ってしまい、男は鼻から血を吹き出して倒れてしまった。
「これ……生きてるのか?」
「大丈夫です。心臓は動いてます」
「そういう問題じゃ……まあ、いいか」
兎にも角にも入り口は開かれ、弘樹たちは階段を下って地下牢へと入った。
聞こえてくるのは人の息と水が滴る音だけ。
かなり暗いので、弘樹が腕から炎を出すと、牢の中に閉じ込められた船員たちとギルドが見えた。
「おお! お客人! 頼む、ここから出してくれ!」
「分かってる。それより、ギルドは……」
ギルドは不敵にも鼾をかいて眠っている。
――こいつ……なんか、心配して損した気がする……。
弘樹は鉄格子を掴んでギルドを呼んだ。
「おい! ギルド! 起きろ!!」
しかしギルドは起きない。
隣の船員が、苦笑いしながら弘樹に言う。
「兄貴は、ちょっとやそっとじゃ起きないんだ。かといって無理に起こせば殴られる」
「そんな理不尽な……よぉし、そっちがその気なら、こっちにも考えがある」
弘樹は小さな炎が燃える指先をギルドに向ける。
「ヒロキさん……まさか」
「そのまさかだ!」
にやりと笑った弘樹の指先から大きな炎が噴出し、眠っているギルドの前髪に燃え移る。
「っ!? だぁっちぃ!!」
驚いたギルドは牢の中を転げ回り、縮れた髪を摘みながら起き上がった。
「くぅ……オレの髪が……ヒロキィ、もっと起こし方があると思うぜ?」
意外にもギルドは、弘樹が来たことに驚いていない。
まるで最初から分かっていたような態度に、逆に弘樹が鼻を摘まれたような気がした。
「もしかして、予想済みだったとか?」
「ああ。まあ、確信があったわけじゃねぇ。なんとなく、そんな気がしただけだ」
「来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「そんときゃ、潔く首吊るつもりだったぜ? とっとと引っ張り出せ」
「はぁ……面倒くさい奴だなぁ。待ってろ。今開けてやる」
周りを探してみたが鍵が見当たらないので、仕方なくイスカリオンを取り出して鉄格子を切断した。
まるで手ごたえが無い。
改めてイスカリオンの切れ味に息を呑みながら、ギルドの手足を縛っていた縄を解き、さらに他の船員たちの縄も解いた。
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