9515人が本棚に入れています
本棚に追加
/908ページ
そう考えていると、ギルドが背を向けたまま右腕を伸ばして動きを止めた。
「どうした?」
「お前らは、もう帰れ。ここから先はオレたちの仕事だ。国王の使者であるお前らに、汚名を着せるわけにはいかねぇ」
「けど……ここまで来て引き下がるのも――」
「ああ、気にするな。オレたちは賊だ。賊を心配するやつがあるか。だが……まあ、そこまで言うなら利用させてもらうぜ!」
ギルドは肩を気さくに叩いたかと思うと、いきなり後ろに回って手を拘束し、またどこからか呼び出したウィンディルグの柄を首に押し当てた。
キヌアも船員たちに羽交い絞めにされている。
これでは、人質のようではないか。
弘樹は状況についていけないのか、呆気に取られたままギルドに身を任せた。
「全員動くんじゃない! さもねぇと、この国王の使者様の首が飛ぶぜ?」
「ギ、ギルド……」
「わりぃな。助けたついでに、ちょいと頼む」
息交じりの小声でやり取りした後に、ギルドは大声で脅しながら甲板の中央へ進んでいき、流石に国王の使者が人質に取られたともなると男たちも従うしかない。
皆が船を下りると、騒ぎを聞きつけたアメハメハとシーナが駆けつけてきた。
「使者殿! おのれ海賊共め!」
「おっと、下手な真似するんじゃねぇぞ? とりあえず、その舫い綱を解いて貰うぜ」
ギルドの指示に港の男たちは大人しく従った。
船の帆が開き、風を受けて徐々にアドラスから離れていく。
しかし弘樹にとっては気持ちのいい船出ではない。
短い間とはいえ、世話になったアメハメハやシーナを偽ってしまったのだから。
甲板で頭を悩ませていると、ギルドが静かに寄ってきた。
「悪かったな。つき合わせちまって。後味が悪いだろ?」
「ああ……罪悪感で一杯だよ」
「だろうな。というわけで、お前らの後味をよくしてやるぜ」
「は? って、おい!」
いきなりギルドが胸ぐらを掴んだかと思うと、あろうことかギルドは弘樹とキヌアを暗い海に放り投げた。
大きな水柱が上がり、口の中に海水が流れ込んでくる。
弘樹はすぐにキヌアの姿を探した。
今のキヌアはカナヅチ同然……早く見つけなければ、すぐに溺れてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!