第12章 月夜の暗殺者

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 カールポートで一騒動が起こっている頃、王都カルリースでも事件が起きていた。  それは、国王シクルスの私室から始まる。  私室の中からはペンを走らせる音が延々と響き渡り、ときたま茶を啜る音や、小さな溜息もドアの外に聞こえてきた。  部屋の中では、シクルスとメイスが開戦に当たっての書類を片付けており、今日でもう丸四日もこの作業が続いている。  サインした書類は幾千枚にものぼり、シクルスは大きく息を吐きながら机に突っ伏す。 「うぅ……疲れたよ。ちょっと休憩させてくれないかな?」 「いけません。まだサインをしなければならない書類は、こんなにあるのですから」  メイスは自分の傍らに積み上げられた、巨大な書類の塔に手を乗せた。  勿論メイスとて疲れている。  しかし、ここで妥協してしまえば仕事のスピードはさらに落ちる。  開戦間近のこの状況で、甘ったれたことは許されない。  とはいえ……流石に少年王にここまでの仕事をこなさせるのも哀れに思う。  メイスは小さく溜息を吐きながら立ち上がった。 「どこに行くの?」 「外のメイドさんに、茶と菓子を持ってきてもらいます。もう少ししたら、休憩いたしましょうか」 「助かるよ……よし、あとこれだけ頑張ろう」  シクルスはインク瓶の中に浸けられていたペンを持ち直し、再び机の上に積み上げられた書類に立ち向かう。  その間にメイスは、部屋の外に控えていたメイドに茶と菓子を持ってくるように頼んだ。  すると、メイドとすれ違いながら黒い鎧を身に纏ったヴェルディンがやってきた。 「おや、将軍。兵たちの訓練は終わったので?」 「…………ああ」  ヴェルディンは開戦が近いということで、城の兵士たちの訓練を行っていた。  といっても自分は睨みを利かせるだけで、殆どの兵たちはそれぞれ相方を作って試合を続ける。  勿論手にしているのは木剣だ。  貴重な兵が怪我をしてはならない、とのメイスの意向である。
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