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「ご苦労様です。陛下にご報告ですか?」
「……ああ。そこをどけ」
「はいはい。どうぞ、お通りください。といっても、私も部屋に戻りますがね」
メイスを先頭にヴェルディンも国王の私室に入った。
シクルスを前にしても、ヴェルディンは挨拶もせずに机の前に移動し、勝手に報告を始める。
「……兵の訓練が、終わった。以上だ」
「ご苦労様。それより……僕の仕事を手伝ってくれないかな?」
「断る」
きっぱりと言い放ったヴェルディンは、踵を返して部屋から出て行こうとしたが、メイスに黒いマントを掴まれて彼を睨み付けた。
「……離せ」
「いけませんねぇ、国王陛下のお願いを断るとは。さあ、貴方も共に仕事を片付けるのです!」
血走った眼で言い寄ってくるメイスに、ヴェルディンは殺気を飛ばす。
「黙れ……斬るぞ」
「陛下の御前で剣を抜くのは大罪。そのときは、貴方の首が飛びますよ?」
「貴様……黒いぞ」
「貴方に言われたくありませんね。さあ、ではこの書類たちにサインを」
差し出された書類の山を目にしたヴェルディンは、舌打ちをしてペンを握り、凄まじい勢いでサインを走らせていく。
だが雑に書いているわけではない。
その字体は、武人のものとは思えないほどに美しいものであった。
私室の中に三人分のペンの音が響き渡り、結局書類を書き終えたのは深夜だった。
夜空には見事な満月が浮かび上がり、三人は温かい茶を啜りながら溜息を吐く。
サインを書き入れた書類は数えるのも気が遠くなるほどで、皆、指を痙攣させながらグッタリとイスに深く腰掛けている。
「僕……もう寝るよ」
「承知いたしました。将軍、出ましょう」
「……ああ」
メイスとヴェルディンは国王の私室から出て、それぞれの部屋に戻っていった。
暗くなった無人の廊下を歩きながら、メイスは鼻から息を吐く。
「ふぅ……疲れましたね。陛下もまだお若いのに、感心なことです。
かの国王ならばこの国も安泰というものでしょう。
しかし……その国王陛下の王冠を齧ろうとするネズミがいては、枕を高くして眠れません……ね!」
まるで言い聞かせるように大きな声で独り言を言っていたメイスは、懐から三本のクナイを取り出すと、天井の板に向かって投擲した。
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