第12章 月夜の暗殺者

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 クナイは真っ直ぐ天井板を貫通し、その空いた穴から紅い液体が一滴廊下に落ちる。  すると天井裏で何者かが移動するのをメイスは気配で感じ取った。 「やはり、紛れていましたか。さてさて、どこに逃げるというのですかねぇ」  微笑を浮かべながら、メイスは曲者の気配を追って廊下を歩いていく。  辿り着いたのは中庭であった。  月明かりを浴びて、花々が輝いている中に、黒衣を纏った間者が傷ついた右腕を押さえて立っている。  また、両手の先には大きな五本のカギヅメが装備されていた。  顔を覆う覆面にはコウモリの紋章が描かれている。 「…………ぬぅ、不覚」 「いえいえ、大した隠密でしたよ? ブレストの間者殿」 「っ!?」  まさか気配を追ってこられるとは思っていなかったのか、間者はぱっと背後を振り向く。  そこには相変わらず穏やかな笑みを浮かべているメイスが立っていた。  しかし、彼から放たれる殺気は、間者の全身に打ち付けられている。 「貴様……何者?」 「それを貴方が聞きますか……まあ、答えてあげましょう。  カルナイン王国宰相、フィン・シャロンリード卿メイスと申します。  できれば、貴方のお名前も聞きたいものですね」 「笑止。我は影の住人……名乗る名前などありはしない!」 「おぉ、これはご尤も。しかし、このままではどちらかが傷ついてしまいます。  まあ、もうそちらが傷ついてはいますが、物騒な争いは止めて、大人しく投降していただけませんか?   美味しい食事と温かい寝床を保障しますよ?」 「黙れ! ここで敵に屈する私ではない!」  間者はカギヅメを構えてメイスに斬りかかる。 「危ないですよ!」  驚いたように見せながらも、メイスは余裕をもってカギヅメの攻撃を避けていき、逆に手首を殆ど動かさずに小さなクナイを放つので間者が防戦に回っていく。  とにかくメイスが放つクナイは姿を捉えられない。  それらは着実に間者の手足を掠めて、徐々に傷つけていく。
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