第12章 月夜の暗殺者

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 だが死んだわけではない。  ヴェルディンは剣を振って血を払い飛ばし、鞘に収めると間者を脇に抱えて医務室へと運んでいく。  医者に間者の治療を任せたヴェルディンは、コウモリの紋章とカギヅメを持って宰相室に向かった。  扉を開けると、中ではメイスが優雅に茶を楽しんでいる。  ヴェルディンは茶が淹れられたポットの隣にカギヅメと紋章を叩きつけた。 「……もう少し穏やかに振舞えないのですか?」 「敵は斬った……今……医者が診ている」 「そうですか。ちゃんと警告したというのに……回復を待って、尋問するとしましょう。  それにしても、『影の親衛隊』が動いているとは驚きですね。  まあ、当たり前といえばそうなのですが。ところで何時からお気づきに?」 「貴様と……ほぼ同じだ」 「なるほど。ということは、彼が潜入した時点で気がついていたと。  おかげで助かりました。  中々の手慣れでしたので、少々驚きましたよ。最近あまり体を動かしていませんから」  宰相室に暫し沈黙が流れ、ヴェルディンが踵を返した。 「…………休む」 「ええ、どうぞ」  部屋からヴェルディンが出て行き、残ったメイスはコウモリの紋章を眺めながら茶を啜る。  ――この紋章を再び見ることになるとは……これも、因果というものですか。  ともあれ陛下がご無事で何よりでした。  おそらく敵の狙いは、こちらの内情と陛下の暗殺……いよいよトタクも仕掛けてきましたね。  帝国の民は誇りを何よりも重んじます。  尋問は、骨が折れそうですね……。  カップの茶を飲み干したメイスは、カギヅメを戸棚に仕舞い、眠りについた…………。
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