第21章 砂漠の魔女

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 そして、その囲炉裏の傍でゴリゴリとすり鉢で何かをすり潰している女性の背中が見えた。  髪は蒼く、紅いカンザシが目立つ。服は他の人々が着ている白い着物に少し金色の刺繍が加えられたものを着ていた。 「お母さん、お客人の目が覚めたよ!」 「おや、そうかい。ルピス、そこの隻眼の男にこの薬湯を飲ませてやりな」  ルピスの母は、振り向きながら出来あがった薬湯を木の器に注いで差し出した。  色は深緑で何とも苦そうだ……。  また、顔を向けられて弘樹は一瞬息が詰まった。  ルピスの母の顔は何とも威厳に満ち溢れた、まるで極道の妻のような顔つきで、睨みつけられれば全身の毛が逆立ちそうだ。  父親は明るく柔らかな気性だと信じたい……。  ルピスによって薬湯がギルドの口に注がれていく間、弘樹は正座してルピスの母に挨拶をした。 「安藤弘樹といいます。助けていただき、ありがとうございました」 「おや、随分と礼儀が分かっているじゃないか。うちの娘も言ったと思うが、礼は不要だよ。砂漠では当然のことだからね。おっと、自己紹介が遅れたね。私はケフィア・オーロリア。この一族の長をしているよ。まあ、ゆっくりとしていくといいさね」  調合道具を片づけながら、ケフィアは弘樹に笑いかけた。  弘樹は内心で、彼女が一族の長であることに少なからず驚きながら、他の仲間の居所を聞いた。 「ああ、他の連中なら隣の部屋で眠っているよ。ぐっすりとね。可愛らしい連れじゃないか。あんたの恋人かい?」 「まあ……片方は」 「くく、そうかい。なら大切にしてやることだね。で、そっちの男はもう大丈夫だよ。私の薬は評判がいいからね。明日には目を覚ますだろう。あっちの小娘たちは、もうそろそろといったところかねぇ」
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