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「そうね……確かに私は恐ろしいわ。人並み外れた力を持ち……かつては、吸血鬼だったのだから……」
こればかりは弘樹もしまったと思った。
悪気はなかったとはいえ、彼女の心の傷に触れてしまったことに、弘樹は激しく後悔する。一方のルピスは、目を星のように輝かせてミオを見ていた。
「……なによ?」
「ミオミオって、吸血鬼だったんだぁ! 凄いなぁ……」
「何が凄いというの? 人の血を啜る獣よ?」
「そうかな? 私の中では、吸血鬼ってとても高貴で孤高な感じがして、カッコいいと思うの! 実際ミオミオもクールだしさ!」
と、ルピスは純真な顔で言った。
恐らく本か何かで読んだイメージをずっと抱いていたのだろう。本を読んだ人間なら、誰にでもあることだ。
しかし現実を知っているミオは終始ルピスを一瞥して、それ以上口を開くことは無かった。張り詰めた空気の中で、弘樹は冷や汗を流しつつも、暖簾に隠された隣の部屋から美味そうな臭いが漂ってくるのを嗅ぎつけた。
すると、隣接した厨房から大鍋を抱えたケフィアとキヌアが出てきた。
部屋の刺々しい空気を察したケフィアが、途端に険しい顔になる。
「おやおや、喧嘩なら外でやりな。見届けてやるよ」
蛇に睨まれたカエル……とでもいえばよいのか、弘樹を始めとした三人はケフィアの迫力に圧されて項垂れた。
そんな重苦しい雰囲気を和ませようと、キヌアは微笑を浮かべて大鍋を見せるように少し持ち上げる。
「みなさん、ご飯ですよ。食べましょうよ」
「……そうね」
「分かった」
「あはは、お腹すいちゃった!」
というわけで、少し時間は早いが夕食となった。
メニューはカレーに似たスパイシーなスープと乾いたパンだ。パンを指でちぎって、スープに浸して食べていく。
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