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弘樹たちが出発して一夜明け、一人野営地に残ったギルドは、煙管をふかしながらケフィアと適当に雑談を交わしていた。
右手には一族が愛飲している酒が注がれた杯が持たれ、互いに酌み交わしている。
「へぇ、なかなかイケる口じゃないのさ」
「まぁな……」
注がれた酒を一気に飲み干し、ギルドは軽くため息を吐く。
イドラサソリの毒は殆ど抜けて、今では普通に立って歩くこともできるようになっていた。その回復力には、治療を請け負ったケフィアも舌を巻いた。
「……気にしてるのかい? あの子に言った言葉を」
手酌で盃に酒を注ぎながら、ふと、ケフィアが聞いた。
「…………」
ギルドは答えず、図星と見たケフィアはくすくすと笑う。
暫し沈黙が流れ、酒の瓶も底が見え始めた頃、おもむろにギルドが口を開いた。
「オレは……古い人間なんだろうか?」
「えぇ? 一体どうしたんだい?」
「いや、昨日の言葉を思い返してみたらよぉ……オレも大人気なかったと思えたんだよ。たしかに、女の身で賊から皆を守るには、確たる手段がいる。それが、邪道であってもな……はぁ、オレって古い人間なんだな……と」
「しみったれたことを言ってんじゃないよ。でも、あの子のことを少しでも理解してくれたのなら、私は嬉しいよ。さて、気分もよくなってきたし、もう一升空にしようかねぇ!」
と、ケフィアはどこからともなく、酒がたっぷり詰まった瓶を取りだしてきた。
今はギルドも思い切り酔いたい気分だったので、二人は暫し飲み続けたのだが、ギルドにはこの美酒も、この日はどことなく苦く感じたという……。
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