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夜……弘樹達は大きな砂丘の陰に身を潜め、少し遠くに建てられた砂賊の根城を見据えていた。根城というよりは、要塞に近い。
それもそのはず。
キヌア曰く、あれは大昔に放棄された帝国軍の砦なのだ。
本来ならかなり荒廃しているはずなのだが、どうやら、独自に修繕して根城としたようだ。
今は多くの賊たちが見回りに出ており、さらにかがり火が幾つも焚かれてかなり明るく、近づくには相当難しい。
一体どうやって攻めたものかと弘樹やミオが悩んでいるときに、ルピスは場違いなほどに喜んでいる。
「キヌちんって、お姫様だったんだ! すごぉい!」
「ふぇ!? そ、そんな、凄くないですよぉ……」
キヌアは頬を真っ赤に染めて照れている。
それはともかく、弘樹とミオはどうやって砦に入るかを話し合っていた。
「見張りの目はごまかせるとして、問題は、正面の扉ね」
二人の目線の先には、砦の内部へと続く唯一の手段である正面の大扉があった。
強行突破したところで、あの扉を通らない限り砂賊の頭領まではとてもたどり着けない。
無理に破壊すれば敵が蜂の如く沸き出す上に、襲撃を察知されれば、逃げられる可能性も十分にあった。
ゆえに、今回は帝都に侵入したときと同様に慎重に行かなければならない――のだが。
「じゃあ、行きますか!」
と、ルピスは銃を肩に担いで立ち上がり、砦に向かってずんずん進んでいく。
「ま、待て!」
弘樹はすぐに身を乗り出してルピスのコートを掴み、砂丘の陰に引き戻した。
「えぇい、止めてくれるな! わらわは敵陣に斬り込む!」
「待たれよ! 敵の戦力差は我が方に比べ圧倒的。ここは皆で隠密に徹するのが上策」
「ヒロキ殿、よもや臆病風に吹かれたか?」
「なに……?」
途端に弘樹の雰囲気が変わった。
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