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弘樹は神殿の内壁を手で触りながら、どこかにスイッチめいたものが無いかを探す。
――そういえば、日本の城は石壁の石材を抜くと狭い道があるって聞いたことがあるな。さすがに無いだろうけど。日本か……今、どうなってるんだろう?
「ヒロキさん!」
考えていると、キヌアが大声で弘樹を呼んだ。
「どうした?」
「これを見てください!」
キヌアが指さした先には、四足の黒い獣と思われる壁画が描かれており、その獣に対峙する形で、紅い塗料と黒い塗料であの巨竜とよく似た怪物が描かれていた。
長い尾……大きな角……全身から噴き出す炎……間違いない。
周囲に文字は無いので、黒い獣と戦っている様を描いたものだと思われる。
弘樹は絵に手を添えて感慨深げな視線を送っていると、壁の向こうから、異常な気配を感じた。
身の毛が全て逆立つ様な、戦慄……。
「キヌア……離れていろ。ギルド! ルピス! ミオ!」
ただ事ではない弘樹の声色に、二人は瞬時に駆け付けた。
「どうした?」
「何があったのかな!?」
「…………嫌な気配ね。壁の向こうかしら。砕いて、みる?」
冗談っぽく笑ったが、その実、弘樹達は促すように目線を向けた。
「……はぁ、冗談のつもりだったのに。いいわ、少し離れて」
皆が一歩引いたのを確認して、ミオは拳を構えて力強く壁に打ち付けた。
古代の神殿の壁は相当風化が進んでいるため、いとも簡単に崩れ落ちた。
壁の向こうは少し細い通路になっており、かなり奥まで続いている。
嫌な気配はその先から流れていた。踏み出すことすらも躊躇するほどの恐怖が身を包んだが、この先に出口がある可能性もあるので、弘樹は剣の柄に手をかけ、腕から大きな炎を燃え上がらせて通路を進んだ。
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